春立つ風に205

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 機嫌よさげな辻に見送られて、良太は会社へとハンドルを切る。
 乃木坂まで湾岸線経由で一時間ちょいだ。
「そういえば、実際日本の道運転したことあんまりないんだよな? これ、運転代わればよかったか?」
「や、いいです。良太さん急いでるんでしょ? 俺、一応免許は取れたけど、左側走るってこと乗るたびに自分に言い聞かせて走らないと」
 良太は笑う。
「頼むから逆走しないでくれよ」
「はいっ!」
 森村の良太に対する態度に、何ら変わりはないようだ。
 何か勘づかれたかとは思い過ごしだったのならいいのだが。
「ただ標識? とかの漢字がわからないので、勉強中です」
「え、あ、そうか」
「ヨコスカって言われても、横は何とか想像できてもスカがわかんなくて、調べました」
「漢字の下の英語、ちっさいからな、文字」
「でも今のところまだ、そっち頼りです。それに道路に書いてある文字、読めないのもあるし」
 ふう、と珍しく森村がため息をつく。
「ああ、首都高入る入らないとかで分かれてたりするもんな、レーン。入りたくない時うっかり入っちゃうと動かなくて最悪だったりするし」
「ラッシュ?」
「そう」
 首都高を降りて麻布通りに入ったところで、赤信号で停まる。
「この車、良太さんの?」
「まさか。工藤さんの。あの人、ベンツに乗ってるから、俺が入社した時、こっち使えって。以来、俺専用みたくなってるだけ」
「自分の車は?」
「学生の時、中古で買ったやつに乗ってたけど、いろいろあって売っちゃったし」
「そっか。俺も、高校ん時、ガタピシの車乗ってました。日本だと絶対走らせてもらえなそうなやつ」
 森村は笑いながら言った。
「でも、良太さん、やっぱ恋人いるんだ」
 車の話のついでのように森村が言った。
「へ……」
 信号が変わって、良太は慌ててアクセルを踏む。
「何で急に話、変わるんだよ」
 ごまかすように良太は言った。
「いいなあ、俺も恋人ほしいですう! あったまりたい!」
 森村は声を上げた。
「バッカ、お前、でかい声出すなよ!」
「アプリに登録してみたんだけど、どうもやっぱ、会話が続かないっていうか」
「アプリ???」
「ノリが違うっていう感じ? それに俺、漢字打ちとろいし。やっぱ合コンってやつがいいのかな?」
「そうだなあ、俺も合コンなんて、学生ん時以来だもんな」
 良太はボソリと言う。
「入社してから仕事しかしてこなかったし」
 それを聞くと、森村は、「すみません! 今は仕事覚えるのに集中します!」と隣で頭を下げる。
 にしても、何? それって、モリーも今朝やっぱ気づいてたってことかよ?
 くっそ!
 帰ったらちょっと鏡見てみないと。
 


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