春立つ風に208

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「ああ、アダチスタジオの? じゃ、牧さん誘ってみれば?」
「いいですか? でも恋人と一緒かも」
「聞いてみなよ」
 確かに誰でもOKとは言えなかった。
 だが、牧といえば、非常に真面目な青年だった。
 問題はないだろうと思う。
「スキーもだけど、良太ちゃん、鍋、いつやる?」
 さり気なく割り込んできた宇都宮の言葉は優しいが、圧が感じられる。
「やっぱ二月以降ですね~」
「まあ、そうだよな。そうそう、こないだ食べた豆乳鍋っての美味かったんだよ、これが」
「あったかそうですね~」
「キムチチゲもいいよな」
「宇都宮さん、お腹すいてます?」
 良太は笑った。
「実はそう」
「今夜は美味しいお弁当、用意してますから、楽しみにしててください」
「了解!」
 宇都宮は大きく頷いた。
 ここに来る前に、頼んでおいた弁当を受け取って森村と二人で運び入れたのだが、やはり一人より二人なら時短にもなるし、労力の点でも森村がいると頼もしい。
 その時何やらさっきから話し込んでいた坂口と溝田が良太を呼んだ。
「ここさあ、前回、さくらちゃんがいたからカウンターに並んでても明るかったんだよね。でも今日は男二人に御大が絡むから、絵が暗くならねぇ? ほら、三人ともダークなスーツでしょ」
 坂口が言うと、「いやそこは、別に照明さんがなんとかするし」と溝田が言う。
「そういう明るさじゃなくてさ。良太ちゃん、どう思う? 美亜ちゃんは絡むようなところじゃないし」
 そんなことを言われましても、と良太は坂口を見た。
「はあ。まあでも、宇都宮さんと小笠原、ちょっと離れてれば黒黒しないんじゃないですか? バーテンダーさんとかカウンターのグラスとかが間に入ってれば」
 良太は思い付いたことを口にする。
「おっと、そうか! さすが、良太ちゃん!」
「それで行こう」
 二人が今気づいたみたいな顔で頷き合っているのを見て、良太は、誰でもわかるだろそんなこと、と心の中で呟き、不意に入り口の方へ視線を向けた。
 と、入ってきたのは海老原だった。
 え? 海老原? 海外にいるんじゃなかったのかよ!
 歓迎しない人物の登場に、良太はつい顔を曇らせた。
 立場上挨拶しないわけにはいかないと、森村を呼んで海老原のところへ歩み寄った。
 美亜やエキストラのモデルら英語圏の人間と英語で笑い合っている森村を見ると、良太はやはり慣れない日本語に囲まれていることが、おそらく窮屈なのかも知れないと、ふと思う。
「また。お世話になります、海老原さん」
 すると海老原はフンと鼻で笑い、「一杯飲みたいと思ってきたらこれか、良太ちゃん」と早速いちゃもんをつける。


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