もともと業界内ではクリエイター佐々木が類稀な美貌の主だという噂がちらほらあったのだが、古巣のジャストエージェンシーから独立して以来、女性誌などが佐々木本人を取り上げてからというもの、徐々に注目度が上がっている。
しかも昨年正月から佐々木がクリエイターとして関わった大和屋のイベントは盛況で、かつマスコミの取材によって、イベントの一環として行われた茶の湯の席で点前をする佐々木が映像、紙面、ネットでも拡散された。
しかし佐々木とはこれまで幾度も一緒に仕事をしている良太であっても、今回のドキュメンタリー番組に淑子と一緒に出ていただけないかと佐々木にちょっと打診してみたところが、「いや、俺はあかんわ。出るほうやのうて出すほうやしなあ」と柔らかくダメ出しされたのだ。
大和屋の茶の湯イベント自体、代理店プラグインの藤堂が何かと画策しなければ佐々木を担ぎ出すこともできなかった。
「わかりました。私から周平に申し伝えます」
「ありがとうございます」
淑子の言葉についつい笑顔になって、良太は菓子を美味しくいただいた。
何せあの佐々木だ。
柔らかい言葉にかく乱されがちだが、佐々木の場合、口にした言葉は確固たる意思の表れなのだ。
古巣のジャストエージェンシー時代から佐々木をよく知る彼のアシスタント、池山直子からもしっかと言われている。
ほんわかムードに騙されちゃいけない。
あかんなあ、なんて言われた日には、それを撤回させるのは至難の業。
だがしかし。
直子によると、クソババアなんて言いながら、お母さんの命令にはなかなか逆らえない、らしいのだ。
佐々木がこのドキュメンタリーに出演することには、工藤も文句はないだろう。
映画『大いなる旅人』の撮影も追い込みに入っている京都で渋面を作っているだろう男の顔を良太は思い浮かべた。
何せ、相手がスポンサー企業のお偉方であろうが大物俳優であろうが人気アイドルだろうが、それは違うだろうと思ったら歯に衣着せぬ物言いで怒鳴りつける、業界では知られた鬼の工藤が、こと佐々木相手に怒鳴るところなど見たことがない。
ほんのたまに訪ねてくるニューヨーク在住の工藤の幼馴染でメンタルに難ありらしい榎木佳乃に対しての態度と同じ類のもののような気がしている。
そこは良太としては面白くないわけだが、佐々木本人については誰もが一目置いているし、佐々木を嫌いな人などこの界隈にいるわけがない。
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