春立つ風に31

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 思わず良太の口をついて出た言葉に、「『やさか』さんとこのお菓子はほんまにかわいいてきれいですな」と淑子が答えた。
「あ、研二さんのとこのですか。なんか、いいんですよね、研二さんのお菓子って」
 良太は食べる前に菓子の器を手に取って少し眺めた。
「『やさか』の研二さんが番組に出演されるんはええ思いますけど、茶道家でも年寄りの私ではのうて、周平の方がええん違います?」
 綾小路の初釜の後、工藤が淑子にざっと説明をして出演を打診したのだが、その際、研二や能楽師の檜山匠の名前を挙げたようだ。
「番組の主旨としてはお若い方だけにスポットを当てるというものではありません。皆さんが極めておられる道、というか、技というか、それぞれの解釈に合わせたスポットの当て方を考えております」
 良太はそこで言葉を切った。
 淑子は黙って良太の話を聞いていた。
「研二さんの場合も、京都の『やさか』本店でのシーンも予定しております。ただ、番組では、日本で屈指の和菓子店だから取り上げるというのではなく、あくまでも日本に数多ある中での一つの和菓子屋で、三代目和菓子職人として繋いでいく日本の技としてご紹介していくつもりです」
 すると淑子が「それで家元はんではない私でよろしおすの?」と聞く。
「はい、家元となると、流派もいろいろありますし、もっと身近なところで和の技に親しんでいただくというのが主旨です。大御所の女優さんも出演された茶道教室を描いた『白雲自去來』という映画がありますが、ごく普通の女性がお茶から何かを学びながら成長していくみたいな、流派とか家元とかそういうの抜きに見終わるとほっとする感じで、よかったんです」
 家元なんか出せるか、経費もろくにかけられないようなドキュメントで。
 とまあ、工藤の弁だが、良太はむしろ今淑子に説明したように、身近な和の職人にスポットを当てたい。
「五所乃尾理香さんにも出演を依頼しておりますが、彼女の場合家元のお嬢さんではありますが、家元とは別にもっと自由な形でグローバルに活躍されてますし」
「いずれにせよ周平も一緒に出させてもろた方がよろしいな」
 つまり出演快諾!
 よっしゃ! と良太は心の中で拳を握る。
「それはまあ、佐々木さんがうんとおっしゃってくだされば」
 実のところそれも本音なのだ。
 淑子と教室の生徒とのやりとりでも十分絵になるだろうことはわかっているが、番組は見てもらわなくては意味がない。
 チラッとでも佐々木周平が出てくれるのであれば、視聴率にも大きく影響するに違いなかった。

 


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