佐々木家の表門の前に車を停めてインタホンを押すと、女性の声で、どちら様でしょうか、と聞こえた。
良太が青山プロダクションの広瀬ですと答えると、門が内側へと開いた。
車を入れて停めると、また門が閉じた。
大きな屋敷は相当古く、茶道師範佐々木淑陽の息子であり、仕事では顔なじみのクリエイター佐々木に事前に聞いていたように右手に進むと離れがあるらしい。
玄関へと続くアプローチの敷石もかなり古いもののようだ。
玄関のドアは色は屋敷にあわせてあるが、どうやら近年新しくしたらしい。
といってもやはり年月を感じさせる。
良太が辿り着くかつかないうちに、ドアは中から開かれ、年配の女性が顔を見せた。
「お待ちいたしておりました。どうぞ、お入りください」
この人が佐々木が話していた佐々木家の家政婦仲田さんらしい。
玄関は広く、上がってすぐに衝立をバックに松の枝や葉牡丹、百合などが濃い緑の花器にダイナミックに生けられている。
靴を揃えてあがり、仲田の後について広い年季の入った廊下を歩くと、やがてリビングに通された。
意外やソファセットのある普通のリビングだったことに、良太はホッとした。
畳の間とかは足が痺れるので得意ではない。
屋内は昭和に建てられたものだろう和洋折衷のノスタルジックな雰囲気を醸し出していた。
「お邪魔致します」
大和屋の茶席などで顔を合わせ、沢村の友人ということでも認識されているが、とにかく茶席では扇子の取り扱いなどでビシッと注意を受けたりしているため、良太にとっては超難関な御仁なのだ。
「本日は、お忙しいところお時間をいただきまして有難うございます」
土産に持参した赤坂にある老舗和菓子店のどら焼きを差し出してから、面と向かって相対すると、薄紫の着物に白髪の混じった髪をきっちり結い上げた淑子は佐々木周平とよく似て、しかも稀有な美人だと改めて思う。
最近は美人だと言うと、やれルッキズムだ、外見至上主義だなんだと突っ込まれたりするようだが、美人だからと評価を変えたりすることが問題なのであって、純粋に美しいと思うことはあるわけだ。
それに美人に対する視点も千差万別、人それぞれ感じ方も違うだろう。
ともあれ、良太は古希を迎えたという淑子の凛としたたたずまいは、映像の中でより一層際立つのではないかと、頭の中でカメラを通したシーンを思い描いていた。
ちょうどそこへ、仲田がお茶と菓子を持って現れ、二人の前に緑茶と椿を象った和菓子が置かれた。
仲田がリビングを出ると、良太はその和菓子に目をとめた。
「きれいですね、椿かな」
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