春立つ風に63

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 良太の感情を逆撫でするようなセリフを軽く口にする海老原に、良太はムッとするが、そこはこれまでの経験上抑えて、「さあ、そういうことに関しては俺は頓着しないんで」と返す。
 そんなことがあったりしたら、とっくに切ってやってる!
 感情は抑えたつもりだが、手は勝手に動いて、グラスをゴクゴクと飲み干した。
 チラと宇都宮をみると、クスリと笑ったように見えた。
 その時、宇都宮のポケットで携帯が鳴った。
「ちょっと失礼」
 宇都宮は席を立つと、レストルームの方へ行って電話を取った。
「それで?」
 向かいに座る海老原が良太を見てニヤリと笑う。
「は?」
 良太は意味が分からず海老原を見た。
「良太ちゃんはイケメンの人気俳優と密かに付き合ってるわけだ?」
「はあ?」
 今度は眉を顰めて良太は聞き返す。
「一緒に鍋したり、宇都宮が苦手なバーに一緒に行って飲んだり?」
「何、言ってるんです、あり得ませんよ」
 良太は少し口調を荒くして否定した。
 見境なく手を付けてるような自分と一緒にするなよ!
 妹のことを他人に勝手に教えたり、ゲスな勘ぐりするなよって!
 変な噂を流されでもしたら宇都宮さんに迷惑だ。
「鍋も何も、ドラマの仲間うちで集まっただけで」
 そう言いつつも、確かにバーに二人で行ったあと、宇都宮からちょっと告られたりしたことを思い出した。
「フーン? んじゃさ、良太ちゃん」
 いきなり海老原が身を乗り出して言った。
「このあと、俺の部屋で大人の付き合いしようぜ」
 色気イケメンの怪しげな目がじっと良太の顔を覗き込む。
「初めて会った時から、活きがいいヤツだと思ってた」
 そう言いながら海老原の手が無造作にテーブルに置いた良太の手を握り締めた。
 反射的に良太は手を引いたので、ソファに背中をぶつけた。
「冗談やめてください!」
 良太は少し声を荒げた。
 今度こそ冗談じゃない!
「何も知らない田舎娘みたいなリアクションだな」
 フンと海老原は鼻で笑う。
 うっせえ! あんたと付き合うくらいならとっくに宇都宮さんにOKしてるわっ!
 心の中で思い切り叫んだ良太だが、かろうじて口に出さなかった。
「どうかした?」
 ちょうどそこへ宇都宮が戻ってきて海老原の隣に腰を降ろした。
「いえ、大丈夫ですか? 時間とか」
 良太は極力今しがたの状況を頭から追いやって、宇都宮に尋ねた。
「ああ、社長がね、珍しく、ドラマの状況はどうだとかって。下手に出るんだよ、次の仕事を入れたい時なんか」
「スケジュール大丈夫ですか?」
「いや、ドラマに関しては問題ないよ。その後の話らしい。今度は映画だってさ」
「お忙しいですね」
「もうずっとこんな調子だからね。あ、でも今度はイタリアあたりでロケらしいよ。来年あたり? 俺海外も最近ろくに行ってないし、海老原さんみたいに世界を股に掛けるような仕事が羨ましいですよ」
 宇都宮は海老原にそう言うと、スタッフを呼んでマティーニを頼んだ。
 


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