「同じやつを」
海老原が言った。
「良太ちゃんは?」
「ソルティドッグお願いします」
いい加減にお開きにしたいよな。
良太は思ったが、宇都宮が海老原に海外のどこがおもしろいかと話を振ったので、しばらく海老原の、パリがどうのロンドンがどうの、フランクフルトがどうのという話を聞かざるを得なくなった。
「良太ちゃんは海外、どこ行った?」
宇都宮に問われて、良太は小首を傾げる。
「いや、行ったっつっても、どれも仕事ですから。それも工藤が予定が狂ったからとかって、いきなりパリに飛ばされて、マルローのコレクションとか、フランクフルトも同じくでドイツ英報堂に行って、俄か覚えのドイツ語で会議とか、だからただ場所が海外ってだけで、とっとと戻ってきましたから」
「ああ、俺も似たようなもんだな、ロケとかでニューヨーク行った時もたーっと撮影して、ちょっと夜、ご飯食べに行ったくらいでさ、自由の女神も何もなかったよ」
グラスに口をつけながら、宇都宮が笑う。
「あ、でもほら、イタリアは結構長く行ったんだよね? 例のCMの代役で」
「え、何で知ってんですか?」
「いやほら、小笠原くんから」
宇都宮はニコッと笑う。
「あんのやろ……」
ぺらぺら喋っているだろう小笠原に、思わずそんな言葉が飛び出してしまう。
「いや、イタリアもまさしく仕事でしたから、もう、プラグインの河崎さんに怒鳴られっぱなし、工藤なんか、だからこいつに商品価値があるわけないとか言ってくれるし、俺の黒歴史ですよ」
良太は苦笑いする。
「ああ、でも、そのロケで行ったポルトフィーノは見るだけでもきれいでしたよ」
「ポルトフィーノか。あそこは俺も気に入ってる。ヴィラがあるからいつでも遊びにいけるぞ?」
そんなことを言いながら海老原が割り込んだ。
「いいですね」
良太でなく、宇都宮が羨まし気に頷いた。
「ポルトフィーノで撮影した時、どのホテルだったんだ? ホテルも持っているから今度また撮影するんなら使ってもいいぞ」
えらそうなセリフをどうでもいいような口調で言う海老原を見て、良太は嫌なことも思い出した。
「ポルトフィーノでは、工藤の知り合いがヴィラを貸してくださったんで」
「ほう? そういやあそこに住んでる加絵・ジョヴァノッティ知ってるか?」
何で知ってるんだよ!
「はあ、そのジョヴァノッティさんのヴィラをお借りしたんです」
「へえ? よくあの加絵がそんな親切なことしたもんだな」
「はあ、何か、工藤の高校の同級生だったらしく」
段々良太の言葉が尻すぼみになる。
「ああ? ハ、何だ、やっぱそういうことか。そりゃ合理的だ」
良太は思わず眉を顰める。
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