海老原に言われなくても、イタリアにはもう一人、ルクレツィアという向こうのテレビ局の女がいたのだ。
確かに、加絵もルクレツィアも工藤とは海老原のいう合理的な関係だったらしい。
ちぇ、思い出したくもないこと思い出させるなよ!
んなこと言ったら、他にもあちこちにいるんじゃないかとか考えちまうだろ!
「さて、そろそろお開きとしますか」
グラスを空にした宇都宮が言った。
「はい」
本気で眠くなってきた良太はあくびをかみ殺した。
「車で送りますよ」
海老原が立ちあがった。
先にレジに行った良太は、支払いは海老原になっていると言われ、宇都宮とどこの店が美味いなどと話しながらやってきた海老原に、「すみません、うちがお支払いしなくてはならなかったのに」と言った。
「こっちが誘ったんだ。次はお願いするかな」
海老原はそんな言葉を返す。
「ありがとうございました」
そうは言ったものの、次とかあるわけないだろっ! ったく、厚顔無恥っつうか、ただじゃ起きない奴ってこいつのことだよな! と良太は心の中で喚く。
階段を上がると、すっとベントレーが停まって運転手が降りてきた。
後部座席に良太と宇都宮が乗り込むと運転手はドアを閉めて運転席に戻る。
「宇都宮さんはどちらです?」
海老原は助手席から宇都宮に尋ねた。
「ああ、俺、青山プロダクションの近くなんで、良太ちゃんと一緒に降ろしてもらえれば」
宇都宮が言った。
えっ、と良太は思ったが、宇都宮が良太を気遣ってウソを言ってくれたのだとわかった。
「会社の近くなのか? 良太ちゃんも」
「はい、会社の上が社員寮ってことになってるので」
「へえ」
海老原はどうでもよさそうな返事をした。
「今夜はどうもありがとうございました」
「ごちそうさまでした」
乃木坂にある会社の前で降ろしてもらうと、良太と宇都宮は交互に礼を言った。
ベントレーはまた静かに去って行った。
すると良太は思わずはあ、と大きく息を吐いた。
「災難だったね、良太ちゃん。海老原氏なんかに見込まれちゃって」
くすくすと宇都宮は笑う。
「見込まれるどころじゃないです。宇都宮さん電話で立った時、もろに誘ってきたんです」
「あらら、噂には聞いてたけど、手が早いな」
「結構強引っぽいし、あの人。あの、わざとここで降りてくださったんですよね、すみません、お疲れのところ」
良太はペコリと頭を下げる。
「なんの、良太ちゃんのためなら」
くったくなく笑う宇都宮は「さてと、タクシー拾わないと」と交差点の方へ顔を向けた。
「あ、呼びましょうか?」
良太は携帯を取り出した。
「いや、ラッキー、来たみたいだ」
ちょうどタクシーが来て、宇都宮の前で停まった。
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