春立つ風に62

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「俳優さんなら、もっとセレブなとこに行くんじゃないんですか?」
 海老原が尋ねた。
「残念ながら、俺、周りがオッサンばっかだし、スタッフみんなでドッと繰り出すとかだからな、大衆酒場とか、坂口さん御用達の安酒場とか」
「でも、ほら、ペールムーンでしたっけ? 前、行った」
 良太が思い出して言った。
「あれはさ、ちょっと前に付き合ってた子が行きたがって、カップル向けと言えばそうだけど、俺みたいなオッサンはやっぱ肩身が狭い」
 宇都宮は笑って、トムコリンズを飲む。
「宇都宮さんは割と開けっぴろげなんですね、だからマスコミが追い回す」
 鼻で笑い、海老原がそんなことを言う。
「人気者の宿命ってやつですね」
 宇都宮をよいしょするわけではないが、海老原の言葉には相手に対して傲岸不遜なところがあって、良太はいけ好かない。
 そういえばと良太は田之上が宇都宮のことを、嫌な相手には口も聞かないと言っていたのを思い出した。
 海老原は良太でなくても、上から目線の平気で相手をこき下ろすようなことを言う人間だとわかるだろう。
 宇都宮も傍で見ていてあまり酒を酌み交わしたい相手ではないのではと良太は思うのだが、そうするとやはり、自分のためについてきてくれたのではないかと申し訳なく思う。
 とはいえ、宇都宮は大人だから、海老原と仕事のことなど話している。
 海老原は実業家としては勝ち組だろうし、それ相応の手腕を持っているわけで、もともと富裕層の生れとはいえ、三十代でこれだけグローバルに事業展開しているというのはたいしたものだと頷かないわけにはいかない。
「アメリカなら各地に宇都宮さんクラスにお勧めの物件がありますよ? 日本の芸能人も海外に居を構える人が増えてますしね」
 おや、ホントに仕事の話なんだ。
「そうですね、夢のような話ですけど、今の俺には」
 良太は聞く側になって二人を見比べた。
 片やサラリと品のあるイケメン人気俳優と片や元人気モデルのイタリア系色気イケメンの実業家が並んで海外のセカンドハウスなんかの話題で飲みかわすって、まさしくドラマのような設定だよな。
「良太ちゃんとこの社長さんは、海外によく行くようだし、あちこちに何軒か持ってるクチだろう?」
 海老原が急に良太に話を振ってきた。
「え、いやいや、あの人、ああ見えて中身は昭和のナニワブシオヤジですから、海外に家なんてとんでもない」
 良太が言うのに、「フーン、なるほど」とまたコバカにしたような表情で海老原は続けた。
「まあ、セカンドだろうが家なんかより、あちこちに女がいるってやつか。まあ、そっちの方が合理的かもな」

 


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