春立つ風に61

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「宇都宮さんもご一緒なんですか?」
 美亜が聞いた。
「ええ」
「そうですか。失礼します」
 何となく、良太に声を掛けた時の美亜は難しい顔をしていたが、今は微笑んで、水谷のところへ戻って行った。
 どうしたんだろう?
 良太は首を傾げた。
 しかし、海老原が言ったように、美亜さんは新、つまり野口さんが好きだってことかよ?
 多分夕べ一緒に来たあのアメリカ人らしき男、野口さんの恋人だよな? ハニーとか会社の人も言ってたし、ジェフって呼んでた。
 知ってるんだよな、美亜さん。
 それはちょっときついかも。
 撮影は思った以上に早く終わり、スタッフが片づけを始めると、坂口と奥寺、溝田、それに南雲の大御所グループは飲みに行くらしく、そそくさと帰り支度を始めた。
「良太ちゃん、一緒にどう?」
「すみません、これから海老原さんとちょっと」
「あそ、ウツさんも今日はダメとかだし、真嶋くんは? お嬢さんたちはどう?」
 坂口は若い新人らに声をかけていたが、皆遠慮して緩く拒否され、馴染みのスタッフ陣を誘ってさっさと店を出て行った。
 一方、小笠原は美亜をご飯に誘ってOKがでたらしく、もう一人のモデルオーブリーも交えて、真中、水谷と一緒に意気揚々と店を出て行った。
 宇都宮は今日もマネージャーの田之上を先に帰し、コートを持って控室から出てきた。
「楢木、あと頼むぞ」
 まだ片づけを終えていないスタッフがいたので、海老原はバーテンダーの楢木にそう声を掛けると、良太と宇都宮を促して店を出た。 
 外に出ると、海老原のベントレーが横付けされていた。
 運転手がドアを開けて、宇都宮と良太を後部座席に座らせた。
 海老原は自分で助手席に陣取ると、運転手が静かに車を発車させた。
 車は丸の内にあるビルの前で泊まった。
 海老原に促されて良太と宇都宮は地下へと降りていく。
 どっしりと重いドアを海老原が開けると、整然と椅子が並ぶカウンター、奥にはテーブル席があり、シャープな高級感溢れる空間が広がっていた。
 スーツの男性客が多く、たまに女性の顔もチラホラ見えたが、身なりのいい人種ばかりだ。
 海老原を見ると、店のスタッフは奥のVIP席へと三人を案内した。
 ソファがテーブルを囲んだ席は奥にもあり、パーテーションで区切られている。
 海老原はジャックダニエルズのロックをオーダーし、宇都宮はトムコリンズを頼んだ。
「ジンリッキーお願いします」
 良太は飲みやすいソーダ系を頼んだ。
 海老原と一緒だと悪酔いしそうな気がしたからだ。
「こんな粋な店初めてですよ」
 宇都宮が素直な感想を口にした。

 


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