春立つ風に67

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「随分お疲れみたいね。そういう時は美味しいものをいただきましょ? お昼、奢るわ、何でも好きなもの」
「え、そんな、とんでもない!」
 良太は大いに遠慮したが、「いいのよ、たまには奢らせて? 何だか急に焼き肉が食べたくなったの。良太ちゃん、もちろん食べるわよね?」と鈴木さんはもうそのつもりのようだ。
「そりゃもちろん」
 途端に腹が減ってくるからおかしなものだ。
「じゃ、決まりね」
 受話器を取ると、鈴木さんは楽し気に名の知れた焼き肉弁当の出前を頼んでいる。
 そうだよな、お昼、どこかでランチっても、鈴木さん、一人だと楽しめないって人だし、二人で出てしまうと、オフィスが留守になるし、美味しいものを出前してもらうのが一番いいんだよな。
 というわけで、窓際のソファセットで良太と鈴木さんの二人は、良太の午後からの仕事に合わせて早めのリッチなお昼を堪能し、熱いお茶を飲んで、一息ついた。
「さすが、美味かった! 御馳走様です!」
「どういたしまして。たまにはいいわね、こういうの」
 鈴木さんは楽し気に笑う。
 良太もつられて笑っていると、確かに肩から重い何かが落ちたような気もしないでもない。
 と、テーブルの端に置いていた携帯がワルキューレを奏でた。
「はい、お疲れ様です」
「撮影は順調か?」
 一日ぶりの工藤の声である。
「あ、はい。とりあえず今週は『ギャット』での撮影は今日までです。たまに、奥寺さんと坂口さんが意見を戦わせるくらいで」
「ああ、奥寺さんと坂口さんは昔からの付き合いだから、突っかかるのを楽しみにやってるようなもんだ、ほっときゃいい」
「え、なんだ、そうなんですか?」
 ちょっとどうなることかと、良太ははらはらしたのだが。
「今日は竹野の顔合わせだろう。千雪は来るのか?」
「その予定ですけど、念のために迎えに行ってから一緒に行くことにしてます」
「そうしろ。あいつは適当な言い訳つけてバックレるからな」
 またまた千雪さんのことをよくわかっておられる発言。
「何か、顔合わせ、MBCの社長まで顔を出すみたいです」
「フン、竹野で記念番組ってことにしてスポンサーに割り増しさせたんで、こんなのやってたかくらいに今さら気づいたんだろ」
 工藤は辛らつなセリフをつらねた。
「まあいい、何かあったら連絡入れろ」
「はい、あの……」
 言いかけた言葉はおそらく切れた後だったろう、いつものことだ。
 千雪を拾ってからMBC本社へ向かうために、早めにお昼を済ませた良太はコートとリュックを持ってオフィスを出た。
「うっひゃあ」
 いきなりビル風に煽られた良太は、思わず声を上げた。

 


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