春立つ風に68

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 マイナス四〇度あたりの寒気団が南下して日本を包んでいると、気象予報士が言っていたのを今朝たまたまテレビで見た良太は、また風邪でも引き込まないようにしないと、と思いつつ駐車場に向かう。
 よく、ラブロマンスじゃなくてアクションものでさえ欧米の映画では、恋人同士が、「愛してる」「わたしも!」なーんてシーンが必ずと言っていいほどある。
 そんな甘々なやり取りがしたいわけじゃないが、映画やドラマの話じゃなくても、恋人たちは別れ際ならちょっと余韻を持たせた言葉を交わすとかさ。
 良太はハンドルを切りながらつらつらとそんなことを考える。
「佐々木さんに逢うた時は、天のお告げや思うたんやけどなあ」
 なんて、八木沼選手みたいにバカ正直にぶっちゃけるんじゃなくても、ちょっとでもこう、匂わせみたいなとこがあったりとかさ。
 まあ、そんなもんあのオヤジに期待する方が無駄ってとこだけどな。
 いい年だし、もともとチャラい科白はくような人じゃないし。
 これから大人の付き合いしようとか、仕事の合間に平気で口にする海老原なんかと比べたら、まだ、そっけなくあしらってくれるオヤジのがなんぼもマシだっつーの。
 あいつ、言葉自体はよしとしても、雰囲気全体が即物的でやーらしいっつうか。
 とにかく俺はパス。
 千雪の住むマンションにはすぐに着いた。
 小林千雪は以前は大学の近くにアパートを借りて住んでいたが、今は麻布のマンションに住んでいる。
 購入したわけではなく、もともとそのマンションは東洋グループが海外から赴任した社員やゲストのために建てた十階建ての高級マンションだが、今現在は次期CEO綾小路紫紀とその弟の京助がマンションを半々で持っている。
 用途は依然と変わらないから、京助と千雪の部屋以外はほぼ海外からの住人である。
 京助は実家を出て以来、そのマンションに住んでいるが、たまたま京助のすぐ下の階が空いたので、千雪が入ったというわけだ。
 紫紀の妻の小夜子が千雪の従姉なので、千雪はもうずっと綾小路の家の一員のような扱いだ。
 本人はそれを嫌がって、引っ越しもしないと頑張っていたのだが、何年か前、留学から帰ってみると、空き巣に入られていたという事実がわかり、それを機にアパートを引き払い、今の部屋に越した。
 セキュリティも厳重で、エントランスにはコンシェルジュというよりガードマン的な大きなアメリカ人が立っている。
 そういや、ランドエージェントもアメリカ人だったよな、受付とか。
 良太はもはや顔なじみになった、ガードマンのディックに千雪を迎えに来た旨を話すとすぐ取り次いでくれた。
 アフリカ系アメリカ人のディックは、東京の大学に留学するために日本に来て、今は大学院にいるという、陽気なアーモンド色の肌の持ち主だ。
「あれ、いないのかな?」
 ディックが首を傾げた。

 


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