顔合わせが終わり、一旦休憩を経て本読みに入ることになっており、良太はここで千雪を送ったあと、オフィスでしばらくためていたデスクワークをやるつもりだった。
「待って、良太ちゃん」
追いかけてきたのは紗英だ。
「あの、撮影の時とかまた先生いらっしゃるんですか?」
用があったのは千雪にらしい。
「あ、いや……」
千雪が拒否る前に、「たまに顔出されますよ」と良太が答えた。
「よかった! 今度ぜひ、お話したくって。よろしくお願いします!」
紗英は意気揚々と室内に戻っていく。
「よろしくされてもな……」
千雪がボソリと言う。
「ちょ、良太!」
今度はアスカの声が良太を呼び止めた。
「小林先生はたまに顔出されますってば」
良太が振り向いて言うと、「良太は俺のマネージャーか」と千雪が文句を言う。
「また良太が連れてくればいいだけじゃない。それよりさ」
二人の戯言をも意に介さず、急にアスカが声を落とした。
「大丈夫? 良太、海老原に狙われてるって?」
「え? 良太を誰が狙うとるって?」
千雪までが口を挟んでくる。
「やめてくださいよ。飲みいこうってシツコク言われただけで、夕べ、仕方ないから飲み行きましたよ」
「え、海老原って狙った獲物は逃がさないってやつらしいよ? ホントに大丈夫だったの?」
「当たり前ですよ。ほんと、あんな色気魔人、冗談じゃない」
「良太、その手の輩に狙われやすいもんな」
千雪に言われると大昔の失態まで思い出されるからいやだ。
「そうなのよ、この子、自覚ないけど、その手の輩に………」
「も、ほんと、やめてくださいってば!」
ホントに狙われやすいのかと思ってしまうじゃないか!
「だってほんとのことじゃない」
「夕べは宇都宮さんも一緒に行ってくださったんです」
良太は事実を話した。
「あら、有難い援軍!」
「どうしたんですか? そんな隅に小狭く固まって」
振り返ると秋山が立っていた。
「そういえば、良太ちゃん、大丈夫でしたか? 海老原さん」
良太は秋山さんまで、とため息をついて、肩を落とした。
「夕べは宇都宮さんが保護者になってくれてたんですって」
「誰が保護者ですか」
良太は不服そうに言った。
「なるほど。今週は『ギャット』の撮影、今夜で終わりですよね。最後まで気を抜かない方がいいですよ」
「心して向かいますから、お二人とも戻ってください」
良太に言われて、それでも二人は心配そうな顔で良太を見てから部屋に戻って行った。
「海老原ってそない危険人物? またボディガード手配したろか?」
エレベーターに乗り込んで二人になると千雪が言った。
「結構です。男女問わず手あたり次第みたいな色気イケメンで、今回の撮影で使う店のオーナーなんです。元モデルの今現在やり手実業家」
「ああ、やり手実業家いうやからは、自信過剰気味で何でも思い通りになる思うとるやつ多いもんな」
「その通りですよ。でかいし、腕っぷし強そうだし、何より、俺の苦手なタイプ」
それにしても、その手の輩に狙われやすいとか断言されると良太も段々心配になってくる。
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