「何企んでるんや?」
振り返ると金田一耕助が立っていた。
「や、だなあ、千雪さん、何も企んだりしてませんよ」
さすが名探偵とでも言いたいところを、良太は適当にごまかした。
「そうか? 何か怪しいで」
推理作家で、青山プロダクションでもその原作を映画やドラマ化している小林千雪はふわあとひとつあくびをした。
髪は茫々、黒縁眼鏡の著者近影の写真でミステリーファンはずっと騙されてきたが、実際は類まれな美貌の持ち主であることは、このパーティ会場にいる面々くらいにしか知られていない。
「お疲れのようですね」
「まあな、学会の教授の論文のてったいで、徹夜や」
千雪の後ろの暗がりからまさしく背後霊のように千雪の相方の綾小路京助も現れるし、元青山プロ所属だった女優の小野万里子やその夫で青山プロの嘱託カメラマン井上も顔を見せていた。
下柳を担ぎ出したのはどうやらひとみらしい。
藤堂と酒談義を交わしてご機嫌だ。
何より、窓辺に立つ沢村と佐々木を見て、二人が何とか会えただけでも良かったと胸を撫で下ろす。
佐々木はきっとそのうち関係を解消しようと思っているんだとか何とか沢村は泣きついてくるが、二人を見ると、佐々木はやはり沢村のことをかなり好きに違いないと良太は思うのだ。
だって今の佐々木さん、お前しか目に入ってないぞ。
ほんと、このままこの二人をそっとしておいてやりたい。
と、良太のポケットで携帯が鳴った。
相手は小田事務所のパラリーガルで、沢村の身辺を嗅ぎまわっているという男の調査をしている遠野だった。
「あ、遠野さん? お疲れ様です」
「わかりました。沢村さんの身辺嗅ぎまわっているやつ。今、画像送ります」
遠野の話だと、沢村の父親のお抱え弁護士事務所が雇ってる興信所の調査員で、元警官の五十がらみの男だという。
「今、遠野さんから連絡があって、やっぱいたそうです、沢村を張っているらしき人物が」
遠野の電話を切るなり、良太は藤堂と秋山のところに行って報告した。
「良太ちゃん、顔が怖いよ」
茶化しながらも藤堂は良太の携帯の画像を見た。
「自分の子供を興信所とかに探らせるような親って、マジ腹立つ!」
「良太は幸せな家庭に育ったんだな」
グラスにワインを注ぎながら、ホテルスタッフそのもののような秋山が苦笑いする。
「なるほど、そうすると、プランB決行だな」
藤堂が難しい顔で言った。
「え? ちなみにプランAは?」
「時間になったらここを引き上げて、みんなでラウンジで仕切り直し」
つまり、当初の計画通りということか。
脱力した良太は、腕時計を見た。
そろそろお開きの時間だ。
やがて本物のホテルマンとケータリングサービスを頼んでいたレストランのギャルソン数人がやってきて、てきぱきと片付け、プランBを実行するべく藤堂の扇動でみんなはバーラウンジへと向かった。
ただし、沢村と佐々木だけを残して。
アスカの提案では、コスプレを利用して藤堂とアスカが沢村の振りをして階下にある沢村の部屋に行くことになっている。
無論目的は、沢村の身辺を張っている男をミスリードするためだ。
さらに、堂々とロビーでアスカが沢村と一緒にホテルに入っていくのを見せつけたのも、その策略の一端だ。
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