エレベーターが三十六階で停まると、良太は老婦人に肩を貸しながら部屋のドアの前に立った。
「ごめんなさいね、ソファまで連れて行ってくださるかしら」
「あ、はい……」
良太は見ず知らずの自分が入っていいのだろうかと逡巡したが、老婦人はバッグからカードキーを取り出してドアを開けた。
「ソファでいいですか?」
こちらの部屋もスイートで上の階と同じようにきらきらと宝石箱のような夜景が一面に広がっている。
セレブなんだろうな、品のよさげな人だし。
良太は老婦人をソファまで連れて行くと、「痛むようなら、フロントに電話された方がいいですよ。じゃ、俺はこれで……」と踵を返してドアに向かおうとした。
その良太の前に、リビングの方から三人ほどの屈強そうな男がいきなり現れ、良太は行く手を阻まれた。
「え、何?」
ダークな色合いのスーツをビシッと決めた中の一人は、明らかにあの手の職業の臭いがした。
「何だよ、あんたら!」
良太はその時ようやく、何らかの罠にはまってここに連れてこられたのを察知した。
「そこどいてください!」
三人が三人ともガタイも大きく上背があり、避けるつもりもないらしく鋭い眼光を良太に向けている。
それでもひるまず、良太は三人を睨み付けた。
「ごめんなさいね、広瀬良太さん」
ややあって、背後から声がかかった。
振り返ると、老婦人は嫣然と微笑んでいる。
何者だよ、この人!
何で俺の名前知ってんだよ?!
魔法使いみたいだと思ったけど、本気で魔女かよ?
「最近、なんだけどね、あなたのことを知ったのは」
魔女は不敵な笑みを崩さず、まっすぐ良太を見つめた。
「失礼ですけど、どなたです? なぜこんなことを? 俺に何の用です?」
「コーヒーでいいかしら? まあ、ちょっとお座りなさいな」
まさか、鴻池関係じゃないだろうな!?
かつて良太に拉致監禁まがいのことをした鴻池がまず頭に浮かぶ。
だが、最近良太のことを知ったというから少し違うかもしれない。
いったい………?!
どうやらすぐには通してくれないらしいと悟った良太は、いわれた通り、魔女の向かいに腰を降ろした。
魔女の一言で、三人のうちの一人が奥からコーヒーを入れてトレーに持ってくると、テーブルの良太と魔女の前にカップを置いた。
「あなたのことはちょっと調べさせてもらったわ。いろいろ活躍しているみたいね。家のことでは大変な思いもしたみたいだけど、頑張り屋さんなのね。ご両親は熱海にいらして、妹さんは静岡で教員をされている」
唐突に家族の話をされた良太は、魔女を睨み付けた。
家族にまで危害を及ぼそうってつもりか?
冗談じゃないぞ!
「俺の家族があなたに何の関係があるんです?」
「そんな怖い顔しないでよ。せっかく可愛いのに、台無しじゃない」
「あなたはどなたですってお聞きしましたよね?」
良太は冷ややかに尋ねた。
「いえね、最近、ネットで高広のことが色々流れてたから、気になったのよ」
良太は眉を顰めた。
タカヒロ????
って、工藤?
「私は中山多佳子。あんまり表舞台には出てこないんだけど、ちょっとね、お芝居を見た帰りなのよ」
中山、多佳子。
良太は心の中で反芻した。
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