「携帯、電源切ってないよな……」
時々、電話に出たくない時、千雪はよく電源を切っているのだ。
「……なんや……はようから………」
ややあって、起き抜けという声が携帯の向こうから聞こえてきた。
「おはようございます。実は折り入ってご相談が」
するとあくびをする様子がうかがわれた。
「やっぱ何ぞ企んどったな?」
「ちょっとそれとは別件なんですが」
「こんなはように電話してきたってことは緊急? やったら九時には一応研究室に行くし」
「じゃ、九時に研究室に伺います」
「え? まあ、ええけど………」
良太は携帯を切ると、まず猫たちにご飯をやり、バタバタとシャワーを浴び、顔や髪を整え、スーツを着込んでドアを開けるまで約十五分。
エレベーターを降りてジャガーに乗り込みエンジンをかける。
「打合せ、十時に赤坂だから、何とか間に合うよな」
NTVのプロデューサーとちょっと話すだけだし。
千雪のいる研究室に着いたのは九時ちょっと過ぎだった。
「何や、息せき切って」
「駐車場から走ってきたんで……」
良太は肩で息をしながら答えた。
「ほな、カフェの方行く?」
「はあ……」
良太は千雪と並んで歩きながら、声を抑えて「お友達の加藤さんが盗聴器に詳しいんじゃないかと思いまして」と切り出した。
「加藤? ああ、俺のダチいうより辻の仲間やけど、盗聴器?」
「はあ、もしか会社とか車とか仕掛けられている可能性があるんじゃないかと……」
千雪は「何で急に? なんぞあった?」と聞いた。
「実は大きな声では言えないんですが」
良太は前置きして思わず周囲を見回してから徐に話し始めた。
「ハロウィンやから魔女もでるか」
ざっと良太の話を聞くと、千雪は笑った。
「笑いごとじゃないです」
「ほんまもんのやっちゃんと対峙したんか、怖かったやろ」
千雪は自販機でコーヒーを二つ買うと、カフェテリアの隅に移動した。
「いや、その場では突っかかったんですけど、あとで膝が笑いました」
千雪はうーんと言葉をきってから、「それ、相手、よほど見てからやないと、ほんまに怖い目に逢うで? 特に一人の時とかは」と言う。
「はあ………」
「良太の猪突猛進はええこともあるけど、裏目に出ることもあるからな、気ぃつけんと」
「いや、もう金輪際、やっちゃんなんかごめんです」
良太は断言する。
「まあでもなあ、向こうから来られると厄介やなぁ」
「冗談じゃないっすよ!」
情けなさそうな顔で良太は千雪を見た。
「まあ、その工藤さんのSPが何とかする言うてんのなら、何とかしてくれはる思うけど……とにかく盗聴器のことは、加藤に聞いてみて、何なら一緒に行って調べたるし」
「ありがとうございます!」
良太はテーブルに頭をつけんばかりに言った。
「あとは、あれや、ハッキング? まあ、良太もそこいらへんは注意してるか知れんけど、加藤専門家やし、そっちもみてもろたらええ」
「よろしくお願いします!」
「ほな、加藤と連絡着いたら、またラインするわ」
いやあ、いざって時の千雪さん、頼りになるわ!
千雪の後姿に深々と頭を下げた良太はもうルンルン気分で大学を後にした。
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