月鏡22

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 案の定、NTVのプロデューサーとの打ち合わせは短時間で終わり、十時半過ぎにはオフィスに戻ると、良太は昨日のパーティのお陰でできなかったデスクワークにしばし没頭していた。
 新たな問題が勃発したのはそれから間もなくのことだった。
「何だ、一体これは!」
 平和そうな青山プロダクションのオフィスにいきなり雷が落ちた。
 十一時を過ぎた頃ドアが開いて入ってきた工藤の不動明王のような顔を見た時、良太もくるぞくるぞとスタンバっていたものの、落ちた雷は飛び上がるほどだった。
 超不機嫌!
 工藤に呼び出されたと、ついさっきやってきたアスカと秋山が、「多分今日の新聞のこと」と言ったので、ということは思惑通りになったのだと良太も理解し、慌ててネットで調べると案の定だ。
 テーブルに叩き付けられたスポーツ紙の、その一面には人気女優中川アスカと関西タイガースの四番打者沢村智弘とが腕を絡めてホテルへ入っていく写真がでかでかと載っていた。
「朝っぱらから怒鳴り散らすと、血圧が上がるわよ、若くないんだから」
 アスカは悪びれることもなく言って紅茶をすする。
「どうしてわざわざマスコミにネタを売るようなマネをした?」
 工藤の怒りはまだ収まらない。
「たまにはいいじゃない? 犯罪でもあるまいし、ちょっとは世間が中川アスカを思い出してくれるわ」
 アスカはわざと拗ねたように露悪的な物言いをする。
「留守中何事もなかったと、昨夜お前は言った気がするが」
 工藤は振り返って良太を睨みつけた。
 う、やぶへびじゃん。
「私から話します。私たち事情を知っているみんなが協力したでっち上げなんです。沢村くんと、佐々木さんのために」
「……佐々木さんの? どういうことだ?」
 良太に代わって秋山がそもそも昨夜のパーティを開いた目的や、沢村に関することをかいつまんで工藤に説明した。
 その時電話が鳴った。
「小田先生からです、良太ちゃんに」
 アスカや秋山が工藤に説明している間、黙って仕事をしていた鈴木さんが電話を取った。
「はい、広瀬です」
 小田は昨夜のホテルまで沢村の周りをうろついていた男について伝えてきたのだ。
「はい、はい、……………そうですか、わかりました」
「何で小田がお前に伝えてくるんだ」
 良太が電話を置くとすかさず工藤が尋ねた。
「沢村が俺に報告するように依頼したんです」
 それから良太は沢村に関することで小田に依頼したことや、沢村を嗅ぎまわっているのは沢村宗太郎の顧問弁護士、真岡久史事務所の息のかかった興信所の調査員で、昨夜もホテルの沢村の部屋と同じ階に部屋を取って沢村のことを監視していたらしいことを話した。
 話し終えた良太は思わず、ふうっと息を吐いた。
 なんで俺、昨日っからものすごくハードなメンドクサイ案件にいくつも関わらなくちゃならないんだよっ!
 おまけに、魔女オバサンに関しては誰にでも話せることじゃないし。
「今後は、バカをやる前に俺に報告しろ。フジタに行ってくる」
 工藤はフンと眉間に皺を寄せたままコートを掴んで足早にオフィスを出て行ったが、明らかに入ってきた時とは違って怒りは何とかおさまったようだと、良太は工藤の後ろ姿を見送った。

 


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