月鏡32

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 次に斎藤に用がある時は良太一人でもOKだな、などと、良太の嫌がりそうな顔を思い浮かべて密かに工藤はほくそ笑む。
 そんな工藤の思惑が伝わったかのように、部屋で良太はくしゃみを一つした。
 湯上りにぼんやりビールを飲んでいたせいかもしれない。
 テレビの天気予報では明日から寒気団が南下して寒くなると、気象予報士が温かくしてお出かけくださいとくどいほど訴えている。
「風邪とか引いてる場合じゃないからな、寝よっと」
 寒くなるとナータンは良太の毛布に入ってきてくるっと頭を枕側にして寝るし、チビは足元に丸まって寝る。
 猫の機嫌にもよるのだが、温かい湯たんぽのようでやっぱりありがたい存在なのだ。
 明日はパワスポの沢村八木沼対談が待ってるし、準備はとっくに万端だけどな。
 明後日は沢村と八木沼の二人を御殿山の料亭に招いての接待を予定している。
 沢村の件もまだ調査中だって、遠野さんも言ってたな。
 沢村に張り付いているやつに張り付いて、ほんと頭が下がるって。
 寝ようとすると、またいろいろなことが頭をぐるぐるする。
 そういえば、会社の親睦パーティ、やっぱ年明けだよな。
 みんなに都合聞いとかないとな。
 てより、どんなパーティがいいか、案出してもらわないと。
 しっかし、工藤って、俺よかスケジュールぎっしりだろ?
 よくきっちりやってるよな。
 まあ、大概、何かあるのは相手側だから、怒りも半端ないわけで。
 明後日からドイツか。
 冬のドイツって重かったな………。
 以前ドイツ支社でお世話になった英報堂支社の唐沢さん、たまにラインとかくれてたけど、元気かな。
 最近、連絡ないのって、仕事が忙しいとか、彼氏と別れたって言ってたけど、新しい彼氏できたのかな。
 そうだ、あそこにはケーテさんがいるんだっけ。
 でも工藤、よろめく暇ないよな。
 と思いたい。
 ドイツではフランクフルトから北へとアウトバーンを走るらしい。
 志村さんも藤田さんによほど気に入られているもんな。
 十日ちょいか。
 ナータンがこんな温かいのに、何だかこんな夜は、工藤の腕の中がいい。
 とかって、俺って恥ずいやつ!
 ちぇ、俺のSPもどきなんか心配するよか、ちゃんと無事に帰って来いよな。

 
 

 十一月、しばらく晴天が続くらしいが、うっかり外にでも出たものなら、ビュンビュンビル風が吹き抜けていく。
「さっむ……!」
 しかも夜明け前、カートを引きリュックを背負い、良太は会社の前で凍えそうになって、今から良太を乗せて行ってくれるはずの車を待っていた。
 京助の運転するレンジローバーが走ってきて、スーッと良太の前で停まった。
「これだけか?」
「おはようございます。はい、よろしくお願いします」
 運転席から降りてきた京助は黙っててきぱきとカートを後ろのスペースに積み込み、良太はリュックを持って後部座席に乗り込んだ。
「おはようさん」
 ナビシートの千雪は何だか元気だ。
「朝飯はちゃんと用意でけてるからな」
「おはようございます。ってか京助さんが用意してくれたんでしょ?」
「細かいこと気にせんと、まあ、大船に乗った気で。って、レンジローバーか」
 テンション高めの千雪はたいして笑えないボケ突っ込みを一人でやってから、「出発進行!」と宣言した。

 


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