月鏡33

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 そういえば、こんな状況、何か前にもあったな。
 でもあの時は、気心知れてる藤堂さんや佐々木さんだったから、気が楽だけど、京助さんだからな。
 いや、運転はきっちりしてるだろうけど。
「あの、疲れたら俺代わりますよ? 運転」
「気にするな。五時間六時間なんぞ大したことはない。なんなら、寝て行っていいぞ」
 京助が気前のいいセリフを吐く。
「あ、いえ…」
「遠慮せんかてええで? どうせ俺も寝てるし。気づいたら天国やったとか、ちょっと困るけどな」
 遠慮する良太に、千雪がお気軽なセリフを吐く。
「はあ………」
「はあ、って、良太、京助がいておもろないんはわかるけど、覇気が足りんで覇気が! 京助なんかいないもんと思うとったらええ」
 ぼんやりな返事をした良太の上げ足を取って、千雪は本人を前に言いたい放題だ。
 傍若無人なのはやっぱ千雪さんの方が上?
 一昨日行われた対談の方はいい感じで進んだので、それはよしとしても、夕べは沢村と八木沼の接待で結構遅くなったから、良太はあまり寝てないのだ。
「決してそんなこと思ってませんて。久々の早起きで頭がまだ働かないんですってば!」
「やったら寝たらええ」
「お前がぎゃんぎゃん言うから、寝られねんだろーが」
 京助がボソリと言った。
「わかったわかった。ほな、静かにするよって、良太、お休み!」
 千雪の声を最後まで聞かないうちに、瞼が降りてきた。
 昨日の朝、起きたら工藤は出かけていた。
 ここんとこ工藤はやたらやりたがる。
 一昨日の晩も工藤の部屋に連行されて身体を重ねた。
 しばらく逢えないことを思えば、もうどうにでもしてくれってなもんで、良太もひどく工藤を欲しがって泣かされた。
 工藤に抱かれて眠るとか当分ないんだな。
 そんなことを思うと、良太は急に切なくなった。
  
 
  

 晩秋の北山杉はまた凛とした美しさをもって、撮影陣を出迎えた。
 朝からの撮影は吐く息も白く、極力防寒対策も整えているつもりだが、良太は寒々しい空気の中で、演技をする俳優陣や撮影するクルーたちを見つめて、タフじゃなきゃやってらんない仕事だよな、と改めて思う。
 今朝がた、日比野監督から、新しいADを紹介された。
「フリーでやってる森村くん。こちら青山プロダクションの広瀬さん」
「よろしくお願いします!」
 警官のようにきびきびと頭を下げる森村に、良太は名刺を出して、よろしくお願いしますと頭を下げた。
 見ていると、あちこちでああしろこうしろと言われているが、文句の一つも言わずてきぱきと動き、しかも俊敏で仕事が早い。
 体育会系? って感じだな。
「良太、今日から一緒に合宿だな、楽しみ」
 檜山には会うなりそんなことを言われるし。
 でも嬉しそうな笑顔を見せられると、ま、いっかと思う。
 ただし、一晩過ごしてみて、檜山が難しそうと感じたら、とっととプリンスに戻ってもらうつもりだ。
 この際一部屋くらいグレードアップしても仕方ないだろう。
 そうすると、他の誰かの部屋にベッドを一つ入れさせてもらうしかない。
 辻さんとかなら、いいかな。
 まあ、それは今夜のことで。

 


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