「え、なに、なに? 良太ちゃんと匠ちゃん、合宿って何?」
主演の志村とともに、『大いなる旅人』シリーズでは、ずっと助演で入っている南澤奈々が、二人の会話を聞きつけて早速良太に問いただす。
「あ、いや、実は、千雪さんとかも来ていて、別件の仕事があるんで」
「そうなの? 千雪さんも来てるの?」
「ああ、俺を送ってから、一旦千雪さんの実家によるって言ってた」
まるでSPのごとく、今日は辻と加藤がバイクで観光客のような顔でロケを遠巻きに見ている。
休憩に入った時、日比野が良太のところにきて、こそっと言った。
「なあ、朝からあのごつい兄さんたち、ずっといるよな。バイクも気合入ってるし、大丈夫かなあ」
「ああ………」
良太は辻たちを振り返った。
やはりどうしても何だか強面オーラが漂っているらしい。
「いや、大丈夫です。実は、彼ら、千雪さんのお仲間で、ロケの見学したいっていうんで、邪魔しなければいいよって」
それを聞くと日比野は、「なんだ、そっか」とほっとした様子だ。
「よかったよ。今度は暴走族に喧嘩でも売られたりしたらと、肝を冷やしたよ」
「すみません、最初にご報告しておけばよかったんですが…」
「いやいや、見た目で人を判断しちゃいけないってことだろ。こちらこそ悪かった」
日比野は先だっては新人女優の二村に振り回されて撮影のスケジュールが狂いまくりで、しかも窃盗疑惑にまで発展し、その心労はいかばかりかという感じだ。
二村の代役に入った、ドリームエージェンシーの三木原澪がなかなかいい味を出してくれているので、ようやく撮影も軌道に乗ったという矢先、また変な連中に絡まれてはたまったものではないだろう。
それも自分のSP代わりにいるとか、良太は考えるだけで溜息ものだ。
ったく、工藤のせいだ!
ってか、あの人、ときたま、変なこと思いつくよな!
「なあ」
いきなり背後から、こそっと声をかけられて、良太は驚いて振り返った。
「え、匠、何?」
「あいつ……」
今度はどいつのことだよ?!
「新しいADって」
「ああ、森村さん?」
「あいつ、只者じゃないな」
「はあ?」
クルーの中を走り回っている森村を見つけて、また檜山を見た。
「なにそれ?」
「身のこなしが尋常じゃない。何かやってる。芸能とかじゃなく多分武道。俺も合気道やってるからわかる」
「え、うそ???」
今度は檜山をまじまじと見つめた。
「ウソじゃない。中学の時から、演技にもプラスになるし、防犯対策にもなるって思ってやり始めて、段持ち」
「ええええ、匠も実は腕に自信あり?!」
お人形のように可愛いくせにとか言うとハラスメントだから言わないけど、まさかだった。
「腕に自信なしな俺が情けない」
ついつい愚痴もでるわけだ。
「何、言ってるんだよ。良太は野球やってたんだろ?」
「やってたよ。でも野球やっても腕っぷしは強くならないし」
はあ、と良太は肩を落とす。
「何をしょげてんだよ。腕っぷしなんか強くなくってもプロデューサー関係ないじゃん」
「まあ、そうなんだけどね」
檜山は日比野に呼ばれて、次のシーンの撮影に入った。
檜山の演技は相変わらず幽玄だ。
こんな演技ができて、能を舞い、しかも合気道の段持ちって、何だよ。
比べても意味がないことはわかっているが、自分に力の無いばかりに周りに、工藤に迷惑や心配をかけるのはやはり情けない。
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