月鏡36

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 いつの間にか、時刻は正午を過ぎ、監督から休憩の声がかかった。
 良太は、俳優陣やスタッフに弁当を配り始めた。
「手伝います!」
 ハキハキした声は、周りの気分をも明るくしてくれるのがいい。
 新しいAD森村はにこにこ、きびきびと動いてくれる。
「あ、じゃあ、そっちの箱、皆さんに配ってもらえますか?」
「わかりました!」
 良太も緩慢に動いているわけにはいかない。
「お疲れ様です」
 昔、子供向けの戦隊ものに出ていた俳優三田園亘は、弁当を渡すと、ありがとう、と人のよさそうな笑顔を良太に向けた。
「子供の時、ウオッチマン、よく見てました」
 つい、懐かしくてそんなことを言うと、三田園はさらに目を細くして笑った。
「私も懐かしい名前を聞きました。覚えててくださって嬉しいですよ」
「あの時、ウオッチマンに正しい道を諭す先生の言うことは、俺もちゃんと聞いてました」
 三田園はまた笑い、「そういう子供たちがこうして立派になられて、感無量ですな」と頷いた。
 檜山演ずる安倍晴明の生まれ変わりとされる青年有賀晴明は、ハルアキと読むのだが、雰囲気からか周りからセイメイと呼ばれている。
 その晴明の祖父の役を三田園が演じている。
 今回、もう一人の大ベテラン橋本祐三も安倍晴明を研究している大学教授という役で出演している。
 こちらはドラマや映画で主役も張る名俳優だが、年を取れば多少気難しくもなるだろう。
 七十代できつい撮影をこなす方が凄いと良太は思う。
「配り終わりました!」
 森村が元気よく戻ってきた。
「お疲れ様です。ご自分の分、確保しましたか?」
「はい、ちゃんといただきました」
 森村は手にした弁当を掲げて見せた。
「って、俺、自分の分、ないじゃんね。どっかに余ってるはずなんだけど」
 良太は空になった段ボールを畳みながら、やっと一つの箱に五つほど余った弁当があるのを見つけた。
「あったあ。でも、他に弁当ない人いないだろうな」
 すると、森村が、「お弁当、もらってない方、いませんか?」と声を張り上げた。
 四方を確認したが、皆に行き届いているようだ。
「しゃあない、辻さんたちにもお裾分けするか」
 良太は弁当とお茶を二つずつ持って、辻たちのところに歩み寄った。
「すみません、弁当、よかったら一緒に食べません?」
 辻と加藤は途端破顔した。
「ええのん? そんなもろても」
「ありがとうございます!」
 ちゃっかり弁当を手に加藤は頭を下げた。
 クルーの輪から離れたところにいる二人に弁当を渡した良太に、森村はついてきて、「いいんですか? 観光客とかでしょ?」と尋ねた。
「実は撮影見学してる、仲間なんです」
 良太は彼らのことをどう説明しようか迷い、仲間と呼ぶことにした。
「一緒に食べていいですか?」
「ええ、どうぞ」
 良太がクルーから離れ、巨大な木の根っこに座ると、森村も隣に腰を降ろした。
 辻と加藤も近くの木の根に腰を降ろす。
 ちょうどここは陽ざしが入るのでまだ明るい。
 後ろを見ると鬱蒼とした北山杉の群れが、前を見るとガードレールの向こうは峡谷になっている。
「一応、あの、お耳に入れておきますけど」
 あらかた弁当を食べ終わった森村が徐に言った。
 良太は、何の気なしに森村を見た。
「俺、波多野の弟子なんで、何かおかしなことがあったら、俺に言ってください」

 


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