日比野監督の弟子なのでとでもいうように、ニコニコと森村が言うので、へえ、そうなの、と聞き流しそうになった良太は、一瞬この似て非なる名前を聞き違えたのかと思った。
「え、日比野さん、だよね?」
「いえ、波多野、です~」
語尾を伸ばす今時の若者の顔を良太はまじまじと見た。
「えええええ、うっそ!」
まあまあ、落ち着いて、と思わずゴクンと呑み込んだのが喉につかえた良太に、森村はニコニコと笑う。
お茶をがぶ飲みして、やっと落ち着いた良太は、「ってか、波多野さん、私がお灸をすえときますとか、言ってたよね?」と思い出して尋ねた。
「ってか、まだあの魔女オバサン、俺のこと狙ってるとか?」
森村は頷いた。
「マジで? 何のために?」
「いやあ、そこがどうも。波多野がお灸を据えようと人をやったら、どうやら影武者だったらしく、すぐに俺が呼ばれて日比野さん経由でここのクルーに。一応、フリーでADやってるんで」
はああああ、と良太は大きくため息をついた。
「一人にはならないでくださいね。彼らも用心棒でしょ?」
森村は辻や加藤を見ながら尋ねた。
「用心棒って…………。まあ、腕のたつ仲間?」
「千雪さんて、機転が利きますね。凄腕ばかり集めて温泉旅行って」
「どこで仕入れるのかな? その情報」
「波多野経由です」
さらりと森村は言った。
「あっそ」
「もし彼らがいなければ、俺、一緒の部屋にさせてもらおうと思ってたんですけど、ホテルでは彼らがいるから大丈夫そうですし」
「でも、相手、ホンモノなんだろ?」
「腕はお仲間の方が上と見ました。それに、檜山さん、合気道の達人ですし」
良太は驚いた。
「そんなことまで知ってるんだ?」
「ああ見えて、凄腕です。ニューヨークでも襲われそうになって相手を叩きのめしたことがあるらしいです」
ひええ、勘弁してくれ。
「やっぱ俺だけじゃん。腕のたたないのって」
また落ち込みそうになる良太に、「威勢と度胸は凄いです」と森村は慰めにもならないことを言う。
「ま、いいや、波多野さんの弟子だってことは口外しない」
「千雪さんなら大丈夫と言ってました、波多野が」
「いいのか、それで?」
逆に大丈夫かと思ってしまう。
「千雪さんはブレないので」
「確かに。工藤の不利になるようなことは絶対しないな」
俺もだけど。
「仕事中は忘れてください」
「そんなの考えてらんないって」
良太が立ち上がると、森村も立ち上がった。
「弁当の殻、集めてきます~」
語尾伸ばすヤツが、波多野の弟子?
ああ、でも、匠が、あいつは只者じゃないって、見抜いてたな。
「あ、そうだ」
また森村が寄ってきた。
「思いがけないことで誘導されるとかあるかもなので、気を付けて」
「おい、まさか、クルーの中にとか言うなよ?」
「いやそれは大丈夫です~」
バタバタとゴミ袋を手に、森村は弁当の殻を集めて回っている。
「すみませ~ん、ゴミはこちらにお願いします~」
にこにこ楽し気な森村には誰もが悪い気はしないらしく、クルーも俳優も漂う雰囲気がいい感じだ。
「あの波多野さんの弟子にしちゃ、明るいやつ、ムードメーカー型傭兵?」
良太は呟いて撮影が始まるのを待った。
と、また携帯が鳴った。
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