「お疲れ様です~」
森村は相変わらず愛想を振りまきながら、ちゃっちゃかクルーを手伝って片付けにかかっていた。
ふと見ると、加藤と辻のコンビが、いつの間にか京助と千雪のコンビに代わっていた。
「お疲れ様です」
良太が近づいていくと、千雪と京助が振り返った。
「もう、終わったん?」
千雪の足元にはシルビーが寄り添っている。
「ええ、今日は割と早く終わったんで、監督とか、帰って飲むんじゃないかな」
「そのくらいの楽しみがないと、きつい仕事やもんな」
あくびをしている京助は、やはり疲れがたまっている感じだ。
「檜山さんの撮影シーン見ました?」
良太は千雪に聞いてみた。
「残念ながら、ちょっとだけな。また明日見せてもらお」
「何か、檜山さんのシーンだけでも一つ映画ができそうな感じですよ」
「何? 良太、ついに芸術に開眼してもた?」
「もうずっと前から、能とビバルディですよ。こないだはカミーユ・クローデル?」
良太は工藤と訪れたフレンチレストランのことを思い出した。
「え? 良太にしちゃ、えらく粋な名前がでてきたやん」
「知ってるんですか? 彫刻家で、こないだ西麻布にできたカミーユってフレンチレストランに、彫刻が置いてあって」
「へえ。好きな人は好きやで。ロダンに才能を食い物にされて精神を病んだ天才彫刻家や。ポール・クローデルは弟」
サラリときつい言葉で説明された良太は、「え、そんな生涯? あんなきれいな人なのに。誰です? ポール・クローデルって」と聞き返す。
「詩人、作家。お前、もっと本読めや。プロデューサーなんてのんは、広く浅く、深くでもええけど、物事を知らんとあかんやろ」
「はあ、あかんですか………。もう俺、いっぱいいっぱいなんすけど」
良太はめいっぱい弱音を口にする。
「あかんね。まあ、良太の場合は、野球バカやったからしゃあないか。これからでも知識はあらゆるとこから吸収するとええで」
「はあ………俺はボール投げてるだけでよかったんすけどね」
このタイトなスケジュールを縫ってこれ以上どうやって勉強しろっていうんだ、と良太は肩を落とす。
「てことで、そろそろ帰れるんやろ? 日が落ちるの早いからなあ」
「あ、じゃあ、檜山さんも一緒に。呼んできます」
日比野と何やらまた話し込んでいる檜山のところに歩み寄って、良太は話が終わるのを待った。
「あ、帰る?」
檜山が気づいて声をかけてきた。
「はい、京助さんが車で送ってくれます」
「おい、良太ちゃんもあっちのホテルなんだって?」
ちょっと羨ましそうな顔で日比野が聞いてきた。
「あ、日比野さんもよろしければ、向こうのホテルに変えましょうか?」
「いや、いいって。俺ら、酒のみが寄り集まるのが楽しみでもあるし。三田園さんもかなりの酒豪らしいし、橋本さんと三田園さん、昔から仲いいみたいで」
意外な話を聞いた。
「え、そうなんですか?」
主演を張る俳優とワキだけでやってきた俳優って、壁がありそうとか、良太は勝手に思い込んでいた。
「それじゃまた明日、お疲れ様」
「お疲れ様です!」
日比野は橋本や三田園と一緒に、車に乗り込んだ。
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