月鏡58

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「あの時はまだわからないって言ったんだけど、さては坂口さんに何かたきつけられた?」
 さすが宇都宮、勘がいい。
「はあ、あの、ぶっちゃけ、ドラマのオファーなんですけど」
 良太はこの際だと、正直に言った。
 青山プロダクションの小笠原とダブル主演で、医者と刑事がバディを組んだアクション交じりの娯楽に徹したドラマだと良太は説明した。
「スポンサーは東洋商事メイン、工藤プロデュースで坂口さん、乗りに乗って本書いてるって話で」
「ナニソレ。ほぼゴーサイン出てるってやつ? 俺が断ったらどうなるの?」
 呆れ顔で、宇都宮が聞いてくる。
「うーん、多分アテガキっぽいし、宇都宮さんクラスの俳優さん探す方が大変なので、再来年?」
「ってか何、要は俺が空いたらやりますみたいじゃん、それって」
 宇都宮はくすくす笑う。
「まあ、そんな感じ?」
「しょうがないなあ。でも多分結構タイトだからさ、空いてる時に撮影入れるみたいな感じになっちゃうと思うけど、いいのかな?」
「そりゃもう! OKです。宇都宮さんに合わせます!」
 良太は大きく頷いた。
「全く、良太ちゃんに言われたら、俺断れないとかわかってて、坂口さん、ずるいよなあ」
「ええ? いやあ……」
 そんなことを言われると、それこそ良太にも立つ瀬がない。
「でもなんか面白そうですよ? 高尚な文芸作品もいいですけど、アクション娯楽とかって、俺好きかも」
「まあね、他のメンツはまだ決まってないんだろ?」
「ははは、まだこれからです~」
 どうせ、また俺にオハチがまわってきそう。
 とはいえ、宇都宮に快諾してもらったことで、もうプロジェクトは動き出したようなものだ。
 良太は心の中で、よっしゃあ、と叫ぶ。
 これで懸案の一つが片付いた、と思いたい。
 ひとみや竹野は、まだこれから腰を据えて飲むらしかったが、良太は日付が変わる前に暇を告げた。
「次は正月かな?」
 出がけに宇都宮がにっこり笑った。
 気の毒に、付き合わされる須永も酒は強くないが、いつものことで、寝てしまうだけだ。
 しかし、ほんと、宇都宮さんっていい人だよな。
 いやまあ、正月に逢えるかどうかはわからないけどさ。
 良太はタクシーの中で宇都宮の笑顔を思い出していた。
 人気実力があって、カッコいいとくれば、大抵上から目線の俺様俳優が多いのに、真面目なんだよな、どっちかっていうと。
 ファッションで犬を飼うわけじゃないとか、さ。
 何だかなあ。
 あんな人好きにならない方がおかしいよな。
 俺も、工藤がいなければ、あり得ないことはないかもだけど。
 しょうがないよな、こればっかしは。
 気持ちの行く末なんて、わからない。
 そういえば、佐々木さん、CMで本谷くんと逢うみたいだけど、本谷も頑張ってんだろうな。
 本谷、工藤のこと、どうしたんだろうな。
 俺がとやかく言うようなことじゃないけどさ。
 何か、昔の俺見てるみたいでさ。
 タクシーを降りると、三日月が陰っていた。
「明日雨降るとか言ってたっけ」
 冷たい雨になりそうだ。
「とにかくこれ以上厄介ごとが起きなければいいんだけどな……」
 良太はふと口にしてから、何やら嫌な予感が胸をよぎった。

 


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