なまじっか同時期に司法試験に受かったりしている工藤なので、小田に対する要求も面倒なのだと、小田が良太にぼやいていた。
その上、沢村にまで超面倒な案件で頼られて、いくら仕事とはいえ、確かに、額も後退するよな、などと良太は思わず自分の額に無意識に手をやった。
やがて志村が帰って行くと、鈴木さんも帰り支度を始める時間になっていた。
志村は小杉とともに数日はオフとなっている。
お先に失礼します、と鈴木さんが帰って行くと、いよいよ、良太が例の件と沢村の一件について工藤に報告しなくてはならなくなった。
「えっと、まず、京都での件ですけど」
向こうから言われるのを待つのが嫌で、良太は自分から工藤の前に立った。
「ああ、波多野経由で大体は聞いた」
なんだ、とそれを聞いて良太はちょっと肩透かしを食らった。
確かに森村が波多野に報告しないわけはないのだが。
「これ、多佳子さんに預かったものです」
良太はロケットペンダントが入った箱を工藤のデスクに置いた。
「お前がもらったもんなんだろ? お前が持っておけばいい」
「そういうわけには……」
なんでそんな簡単にいうんだよっ!
良太は眉を顰め、唇を引き結ぶ。
大体、俺がなんで工藤の祖母から、こんな大事なものを受け取らなきゃなんないんだよ?!
って、俺が何でこんなことを考えなきゃなんないのかって、あんた、何で考えないんだよっ!
良太は心の中で叫ぶ。
「だって、この中に入ってるの、あんたの母親の写真なのに!」
すると一呼吸おいて工藤が言った。
「母親の写真なら、曾祖母が見せてくれたことがあるが、実際俺は写真でしか母親のことを知らないし、実感も全くない。悲しむ要素もないんだ」
工藤の言葉は一つ一つが良太の心に染みた。
工藤が生まれてわりとすぐに亡くなったというのだから、存在自体わからないというのも頷けないことはない。
母親というなら工藤を育ててくれた曾祖母の方がそれに値するのかも知れない。
「でも、形見みたいなもんじゃないですか。実感はなくても事実ですし」
「ババアが老い先短い自分が持ってると、工藤のうちのもんに渡せなくなるとか思って、お前に渡そうってんだろ? これでぽっくりいっても思い残すことはないだろうから、もうお前にも接触してきやしないだろうが」
「だから何で俺が持ってるんだよっ!」
良太は思わず抗議した。
「さあ、俺もぽっくりいくかもしれないからな。お前が持ってる方が安全だろ」
「冗談でもそういうこと言うな!」
しれっと言う工藤に、良太は食って掛かる。
「それで小田は告訴したのか?」
工藤はフンと鼻で笑うと、さらりと話題を変えた。
「………まだです。アポがなかなか取れないとかって、向こうはさり気に逃げてます」
むすっとした顔で良太は答える。
「とっとと進めろって言っておけ」
工藤が立ち上がった。
「メシ、行くぞ」
これで話は打ち切りということだ。
ひとまずペンダントは良太が持っているしかなさそうだ。
工藤といつも行く小料理屋での食事だが、ちょっと考え込んでしまった良太はあまり箸も酒も進まない。
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