月鏡64

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「けど、こないだの仕事ってより温泉旅行提供してもらったみたいなもんだったし、そう、ご活躍ってほどの仕事もしてないのに、あんな破格な報酬もらっていいのか?」
 加藤が代表して言った。
 工藤が提示した報酬額を、良太が加藤の口座にみんなの分をまとめて振込してあった。
「いえ、前回の時、皆さんのご好意で色々助けていただいたのに、お礼もしていなかったので、そのことも加味してということで」
「では有難く、いただきます」
 加藤が言った。
「そういえば、どないする? 例のペンダント、鑑定とかしてもらう?」
 千雪が良太に尋ねた。
「ああ、そうですね、ちょっと待ってください」
 こんなものは本当は手元に置いておきたくないのだが。
 良太はデスクに入れておいたペンダントの箱を持って来て千雪に渡した。
「工藤さんに渡そうとしたんですが、お前がもらったんならとかって、全然取り合わないんで」
 つい良太は不平を口にした。
「まあ、そらそやろ。魔女は良太にもらってくれて言うたんやろ?」
 箱を受け取りながら、千雪が断言した。
「けど、ひょっとしたら工藤家の大事なものかも知れないのに、俺がもらう理由がないし」
 良太はまた頑固な工藤を思い出して眉を寄せた。
「嫌ですよ、俺は、お家騒動とか、そういうのに巻き込まれるの」
「お家騒動て、工藤家にはもう工藤さんしかいてへんのやろ?」
 千雪がぱかっと箱を開く。
「工藤家にはそうですけど、工藤家の孫だか曾孫だかってのは、あちらさんにもいるわけでしょ? ほら、工藤がいつもいう、俺の伯父って人の娘とか」
 良太は想像をたくましくして、極道の娘を頭に思い描く。
「さぎりさん、てきれいなひとやな。魔女も大事に思うてはったんやないか? さぎりさんの写真が入ってるペンダントなんて、工藤さん以外欲しがらへんやろ」
 千雪がペンダントに入っている小さな写真を見て言った。
「第一、知らねぇんじゃないのか? ババア以外」
 京助が首を傾げてフンっと鼻を鳴らす。
「写真でしか知らないし、哀しむ要素もないとか言って、受け取らないんですよ、工藤さん」
 良太がまた文句を口にする。
「まあ、せやな。さぎりさんて工藤さんが生まれてすぐに亡うなったんやろ? 会うたこともない生物学上の母親に感情を持ついうのんも難しんかもな。 けど魔女には大事な娘やったから、工藤さんが受け取らへんのはわかっとったから良太に渡したんちゃう? 要は工藤さんの意思がどうとかやのうて、魔女が渡したかっただけやし」
 さらりと千雪が解説したところで、オフィスのドアが開いて工藤が戻ってきた。
「お帰りなさい」
 鈴木さんや良太が声をかけたが、そのまま工藤を待っていた男たちの方へ歩み寄った。
「工藤だ。先日は急で厄介な仕事にも関わらず対処してくれて非常に有難かった」
 工藤はコートも脱がずにみんなを見回して、簡潔に礼を言った。
「そこでだ。それぞれ仕事もあることだろうが、もし、できれば可能な限りで結構だが、また何かの時に用心棒的な仕事を頼んでも構わないか?」
 この発言に良太は驚いた。

 


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