月鏡65

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「ひょっとしたらうちのタレントや社員、が対象ということもあるかもだが、主にこの良太だ。いつも四人でなくても、都合がつく者だけでいい」
「え、ちょ、工藤さん! 俺だって自分で何とかできますし、何かって、もう魔女オバサンは襲ってこないでしょう?」
 工藤のまたしてもな提案に良太は抗議した。
「お前ひとりで何とかできない時の話だ」
 工藤は良太の抗議には耳を貸すつもりはないようだ。
 加藤を始め辻、山倉、白石の四人は、互いに顔を見合わせた。
「俺は構いませんよ」
 加藤が言った。
「右に同じ、やな?」
 辻が言うと、山倉や白石も頷いた。
「異議なし」
「では、よろしく頼む。窓口は加藤でいいか?」
 工藤が返事を促した。
「いいですよ」
 加藤が言った。
「よし、決まりだ。今夜は千雪、何でもこいつらにおごってやれ。領収書は俺に回していいぞ」
 途端、男たちから野太い声で、「ありがとうございます」という声が返る。
 工藤は不満そうな良太など無視して、たったか決めると、「出かけてくる」とまたドアへと向かう。
「ちょ、工藤さん! すきっ腹に酒ばっか飲まないでくださいよ!」
 慌てて良太が釘を刺す。
「わかった、わかった」
 ドアを開けながら適当に返事をして工藤は出て行った。
「全く、あの人は勝手なことばっか!」
 ぶすっとした顔の良太を、「工藤さん、良太ちゃんのことが心配なだけよ」と鈴木さんが慰める。
「まあ、ええんやない? 良太だけのことやのうて、タレントもおるこっちゃし、こいつらも仕事もらえて有難いわけやし」
 千雪も良太を宥めにかかる。
「はあ、それはそうなんですけど……」
「お前、自分の腕っぷしが弱っちいことはわかってっだろうが。意地を張らずにこいつらに任せておけばいいんだよ」
 良太の気持ちを逆撫でする京助を、良太はジロリと睨む。
 どうせ弱っちいよ、俺は!
 けど、これじゃ、俺が何の役にも立たないってことじゃないかよ!
「やっぱ、焼き肉!」
「それっきゃない!」
「どこ行く?」
「そら、西麻布牛若やろ?」
 釈然としない良太の逡巡をよそに四人は早速これから繰り出す算段をしている。
「良太も仕事切り上げて一緒に行くやろ?」
 千雪に誘われ、焼き肉というキーワードに、良太の腹の虫も泣きそうだ。
 時間は五時になろうとしている。
「いいわよ? あとは私が閉めておくから」
 鈴木さんも快くそんなことを言ってくださる。
「くっそ、こうなったら、食ってやる!」
 決意も新たにする良太に、男たちが笑う。
「じゃ、ちょっと待ってください、パソコン落としてくるんで」
 良太は慌ててデスクに戻ると、パソコンの電源を落とし、コートを持ってオフィスを出る皆のあとを追う。
「それじゃ、すみません、行ってまいります!」
「いってらっしゃい」
 鈴木さんににっこりと送られて良太はコートを羽織りながら階段を降りた。
「あ、皆さん、車とかバイク、ここに置いといて構いませんから」
 良太が言うと、おおっと歓声があがる。
「よっしゃ!」 
「これで気兼ねなく飲める!」
 そうだ、と良太は前を行く千雪に並んだ。
「酔っぱらわないうちにお伝えしときますけど」
「何や?」
 まるで良太が言わんとしていることを察知したかのように千雪が怪訝そうな顔を向けた。

 


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