寒に入り10

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 成長してからは、良太も亜弓の言う意味がよく分かったし、自分の出来が良かったわけではないことも頷けた。
 だがそのうち努力賞が自分なのだと開き直ったから今がある気がする。
 冷静に考えてみると、去年、やたら悩んでいたのがバカみたいに思えてくる。
 周りがみんなできる人ばかりで、自分は何もできないとか。
 何を血迷ったんだか。
 俺は何かを極めなくったって、頑張ってればよかったんじゃんね。
 それが俺なんだから。
「うわ、寒!」
 何気に窓の外を見た良太は、また大粒の雪が降りだしたのを見て思わず大きな声が出た。
 今日、ロケ、外とか言ってなかったっけ。
 工藤がちゃんと防寒対策を怠っていなかったかと、良太は少し心配になった。
「明日もこんなだったら、やだなあ」
 明日の日曜日は綾小路家の初釜だ。
「足が痺れる上に寒いとか、やめてくれよな」
 良太の希望がかなったかのように、翌日はよく晴れた。
 ただし今年の冬は寒いというのは免れなかったようで、青山プロダクションビルを出た途端、ビュービューと冷たい風に、良太は首が縮こまりそうになる。
 工藤と二人タクシーを拾い、綾小路へと向かった。
 綾小路の広い敷地には、年季の入った母屋と、紫紀が妻子を連れて日本に戻ってきた時に改築した離れがあり、紫紀と小夜子一家はこの離れを住まいとしている。
 初釜は母屋に続く茶室などを使って行われるのだが、今日は招待客が多いとのことで、和室が使われるらしかった。
 財界人、企業関連、知人など、約四十名ほどの招待客が、母屋の広いリビングに集まっていた。
「工藤さん、良太! よかった、まだ始まる前で」
 華やかな訪問着のアスカが二人を見つけてやってきた。
 アスカの祖父は、綾小路家の当主とは学生時代からの同窓ということで、祖父になついていたアスカは幼い頃からよく綾小路家に出入りをしていたらしく、紫紀、京助、涼の三兄弟とは幼馴染のようなものらしい。
 兄弟と一緒にいるのは推理作家の小林千雪で、小夜子の従弟にあたる。
「工藤さん、良太、付き合いも大変ですね」
 二人の顔を見た千雪が声をかけてきた。
「そうですよ、俺なんか、大和屋さんのイベントに引き続きで、とにかく足が痺れるのが苦手なんですから」
「お前はもっと鍛えた方がいいんじゃないのか? 佐々木さんに弟子入りでもしたらどうだ?」
 こんな場所でも苦々しい顔をした工藤が、言葉だけは良太をからかう。
 佐々木は業界ではクリエイターだが、母親が茶道陽成院流師範であり、小夜子の師匠に当たり、佐々木自身も茶人として幼い頃より母親に鍛えられただけあって、一門では若先生と呼ばれ師範代も務めている。
 青山プロダクションはCMなどで佐々木にはいつもお世話になっていた。
「能にビバルディに、シェークスピアまで、現在芸術に親しみ中なんで、そんな余裕ありません」
 良太は負けじと言い返す。
 そこへ、こちらもまた眉を寄せて険しい表情をした沢村がやってくるのが見えた。
 プロ野球関西タイガースの人気スラッガーである沢村は、小夜子の実家大和屋のイベントに出演して以来、佐々木や良太の友人でもあり、この茶会にも招かれることとなったらしい。
「どうしたんだよ、いつも以上に嫌そうな顔して」
「何で兄貴がいるんだよ!」
 声は小さいが、良太の耳元で沢村が吐き捨てた。
 良太はぎょっとした。

 


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