「そういえば、匠も来るんですか?」
ふと思いついて、良太は工藤に聞いた。
「俺は聞いていないが、綾小路は贔屓筋だし、今日何も入ってなければ来るんじゃないか」
財界人らしき顔が大方集う中で、ここの一角だけ少し異質な雰囲気になっているようだと良太は感じた。
関西タイガースの沢村だというだけでなく、でかい。
その横にやはり体格のいい研二や、いるだけで何者? な工藤が立つと、威圧感が半端ではない。
「あけましておめでとうございます」
通る声が背後から聞こえ、当然のように着物に袴姿の能楽師、檜山匠が現れると、皆の視線がまたこちらに向いた。
紫紀と談笑している客の中には欧米人も二人混じっていて、その二人が歓待の表情でこちらを見ている。
大柄ではないものの、オーラだけならあまりある匠だが、研二を見ると途端に破顔した。
「先日は差し入れありがとうございます」
すると口数の少ない研二の表情も緩んだ。
「いや」
その時、慌てたようすで藤堂の姿がリビングに現れた。
「藤堂さん」
良太は声をかけた。
「おや、皆さんお揃いで」
藤堂はニコニコと笑顔を向けた。
代理店プラグインの社員で、青山プロダクションとはここ数年頻繁に取引がある。
「あれ、藤堂さん一人ですか? 浩輔さんは?」
良太は周りを見回した。
「ああ、浩輔ちゃんは河崎とニューヨークなんだ。有給を利用して」
「あ、そうなんですか」
どうやらほぼ招待客は集まったようだ。
客を誘導するのは綾小路家の執事、藤原だ。
主よりこの綾小路家のことをよく知るという御仁である。
良太は相変わらず渋い表情を崩さない工藤のあとから、初釜が行われる和室へと向かう。
「おい」
「なんですか?」
良太は工藤を見上げた。
「クロサキイチゴって何だ?」
「は?」
その時良太の頭にビビッと来るものがあった。
「黒崎一護、知らないんですか?」
散々、芸術も知らんのかとバカにされてきた良太は、初めて工藤に買った気がした。
「俺の子供の頃からの人気アニメキャラですよ。実写で映画にもなりましたよ?」
「フン、アニメなど知らん」
益々険しい目つきで工藤は吐き捨てるように言った。
「工藤さん、アニメをバカにしちゃいけませんよ、日本の文化の一端を担っているんですから」
得意げに話す良太を、ガキが、と工藤は鼻で笑う。
リトルリーグでは顔を合わせれば喧嘩腰になる良太と沢村だったが、唯一好きなアニメだけは同じだった。
だから、大和屋の茶の湯に現れた着物に袴姿の研二を見て、沢村が、黒崎一護だ、などと言った時も、良太は思わず頷いたのだ。
良太は着物を自然に着こなして前を歩く研二と匠を見た。
なんか、極めてる人って、やっぱこう違うよな。
工藤に連れられて綾小路の初釜は二度目になるが、前回はもっと人数が少なかった。
今回は四十名ほどとあって、大きな和室を茶室に仕立てて席入りとなった。
床の間の拝見、茶道具の拝見と厳かに席入りが進む。
淑子の横には小夜子がムッシュ・クレマンと呼んだフランス人と朝日産業沢村宗一郎夫妻、藤堂が続いて座っている。
後のお濃茶の際に小グループに分かれ、その最初の客が正客的な役割を担うため、席順は必然的に先頭に茶の湯経験者が来るようになっている。
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