寒に入り14

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「ちょっと、良太、もう二度目でしょ? 今頃から根を上げてどうすんのよ」
「アスカさん、案外正座も平気なんだ?」
 顔を顰める良太の足はまだジンジンする。
「これでも一応、お茶もかじってるし」
 ツン、とアスカは自慢げな表情を見せる。
「そうなんだ?」
 ふと良太が隣の沢村を見ると、どうやら似たような状況らしい。
「着物にするまで言ってたさっきの勢いはどうしたよ?」
「るさいな。前言撤回。これからどのくらいかかるんだ?」
 良太がからかうと沢村はムッとした。
「やあね、沢村っちまで。これから懐石膳が出て、その後お濃茶、それからお薄茶って順番になってるのよ」
 良太の代わりにアスカが答えた。
「グラウンド百週のがまだマシだ」
 沢村の口から弱気発言まで飛び出した。
「お前、佐々木さんのお母さんにダメ出しされるぞ? お試し期間終了とか言われたらどうすんだよ?」
 良太は沢村の耳元でこそっと言った。
 途端、沢村の表情が険しくなる。
「クソ、終了してたまるかよ」
 年末に佐々木家の大掃除に出向いた際、掃除が早く終わったからと、佐々木と一緒にお茶の稽古をさせられた。
 その際、沢村は淑子に沢村との付き合いの許しを請うたというのだ。
 直子に言わせれば、沢村は怖いもの知らずだというが、あにはからんや、淑子はお試し期間だと告げたらしい。
 大和屋のイベントの際、沢村はそのことをまるで鬼の首を取ったかのような勢いで良太に自慢したばかりだ。
 真っ向から反対されなくてよかったとは思うものの、お試し期間だなどと、そっちの方が気が気じゃないのではと良太は少し心配する。
「直ちゃんから聞いたんだけど、大和屋のお茶席で、沢村っちの母と佐々木ちゃんの母がご対面だったってマジ?」
 アスカも気になっていたらしく、コソコソ良太に聞いてくる。
「マジっす。いやでも和やかにお二人話してたみたいだけど、俺ら佐々木さんも沢村もごはん食べに行ったから、二人が何話してたかとかは不明」
「へえええ。なんか、意外な展開」
「沢村のお母さんはざっくばらんな人で、佐々木さんとなんか絵の話で盛り上がってたし。けど、佐々木さんのお母さんって、ちょっと何考えてるか、怖……」
 良太は首を傾げて見せた。
「フーン。ところで、沢村っちの兄貴が来てるって? どれよ?」
「えと……あ、ほら、三友フィナンシャルの友田さんと話してる人」
 良太はさり気に沢村の兄をアスカに教えた。
「あれ? 何となく似てるって言われれば………にしても体格まるで違うし。ひょろっとして、背も良太くらい?」
「ええ、どうせ俺は低いですけど、沢村と比べないでください」
 良太はフンとばかりに腕組みをする。
 と、紫紀や小夜子らの傍で、フランス人二人と話している工藤が目に入った。
 日本語じゃない言葉を話す時の工藤は、何となく違うと以前から良太は思っていた。
 どちらかというと、日本人と話すより表情も豊かで、言葉数も多い。
 むしろ生き生きして見えるのは気のせいだろうか。
 何だか日本は、工藤にとってそれこそしがらみ以外の何物でもないのかも知れない。
 良太がつらつら考えているうちに、やがて懐石膳となり、茶事が粛々と続く。
 懐石膳は人数が多いこともあって、既に膳が用意されていた。

 


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