寒に入り16

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 すると由樹も名刺を差し出した。
「まあ、よろしく。智ちゃんの従姉の大河内由樹です」
 名刺には三友産業グループ、三友ホールディングス、専務取締役という肩書があった。
「プロデューサーさん、カッコいいわね」
「いえ、まだてんで駆け出しなので」
「パワスポとかやってる」
 良太の説明に沢村が付け加えた。
「あ、そうなの。だから智ちゃん、パワスポだけは出るんだ?」
 フフフと由樹が笑う。
「でも、沢村のことをちゃんづけする人、初めてです」
 良太は思わず口にした。
 すると由樹がアハハと笑う。
「見ろよ、これからこいつに、ちゃんづけのことで当分からかわれるんだぞ」
 沢村が苦々しい顔で文句を言った。
「だってしょうがないじゃない。昔からそうだったんだから」
 そういえば、工藤も軽井沢の杉田には、ぼっちゃん呼ばわりされてるなと、良太も思い出し笑いする。
「そういえば、叔母様、やったね! ようやく沢村から抜け出せたみたいでよかったじゃない」
 言ってから、由樹はあっと手で口を覆う。
「いっけない、お兄様も来てたよね」
 やはり楽しい人だと良太は思う。
 茶事の前に沢村のことを見て怪訝な顔をしていた、ひょろっとひ弱そうな雰囲気の沢村兄とは真逆に明るい。
「ねえ、この後、お昼、行かない? 広瀬さんもご一緒にどう?」
 気さくに誘われて良太は困った。
「ありがとうございます。でも、うちの社長もおりますので」
「社長さんてあの方でしょ? 何か超カッコよくない? 凄い存在感あるよね」
 思わず良太は沢村と顔を見合わせた。
「ああ、この人、ああいうの、タイプだから」
 沢村が一応言い訳した。
「やあね、でも社長さん、妻帯者よね?」
 これには沢村も良太も一瞬黙り込む。
「悪いことは言わない、あの男はやめといた方がいい。シングルでも色々いそうだし」
 咄嗟に沢村がそんなことを言った。
「え、シングルなの? 私も一応シングルよ。バツイチ子供アリだけど」
 むしろ顔を輝かせる由樹に、良太はどうしてくれるんだよ、と沢村を睨んだ。
 そこへアスカがやってきて、沢村にこそっと囁いた。
「ねえ、お兄さんがいるってことは、また小芝居した方がいいの?」
 良太にもそれは聞こえた。
「まあ、多少は………」
 そんな良太の横を住吉建設の常務高橋や川村物産の広報部長川村が声をかけていく。
「相変わらず忙しそうだね」
「お久しぶりです」
 良太は川村に挨拶し、夫人にもちょっと頭を下げる。
「アスカさんは広瀬さんの事務所なんですね。テレビで拝見するよりずっとお美しいです」
「まあ、ありがとうございます!」
 アスカはきれいな営業スマイルを向ける。
「広瀬さんもドラマに出るんですか?」
「いや、それは、ないです」
 良太は川村に苦笑いで返す。
「大河内さん、広瀬さんとお知り合いなんですか?」
 高橋が由樹に声をかけた。
「ほら、従弟の智弘のお友達なんです」
「はじめまして! ここで本物の沢村選手にお目にかれるなんて。高橋です」
 にこにこと手を差し出されて、沢村は戸惑いながらも握手に応じる。
「私、タイガースのファンなんですよ。川村です」
 こちらも握手を求められて仏頂面ながら沢村は手を握った。
「やっぱりお二人お似合いですわ」
 川村の妻がにこにことアスカと沢村を見比べた。
「あら、ありがとうございます」
 アスカが宣言通り、意味ありげに小芝居をする。

 


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