寒に入り17

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 俄かに沢村の周りが賑やかになった。
 沢村は煩わしくて仕方ないながらも、佐々木のことが気になって目で探していた。
 佐々木は母の淑子と一緒に小夜子や義母佐保子、浜村会長らと話しているところだった。
 そこに兄の宗一郎がいるのを見て、沢村は眉を顰めた。
 思わず足を踏み出そうとした沢村を、良太が止めた。
「いいから、俺が行くし」
 良太も淑子が何か宗一郎に沢村のことを話したりしないかと気になった。
「小夜子さん」
 早足で佐々木に歩み寄ろうとした良太より先に声がかかる。
「え……」
 工藤だった。
「本日はお招きいただいてありがとうございます」
「工藤さん、こちらこそ、いつも紫紀さんや千雪ちゃん、京助さんがお世話になっております」
 小夜子は相変わらず苦労のない笑顔で、工藤に微笑んだ。
 表裏がないのは千雪と同じで、工藤の出自やら背景やらには全く興味を持たないが、その実、周りに何を言われても自分が納得しなければ聞き入れない頑固なところも同じくだ。
 というわけで小夜子は工藤にとっては信頼のおける人物であることは確かだった。
「工藤さん、本年もよろしくお願いいたします」
 傍らにいた佐々木も工藤に挨拶した。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
「周平、こちらは?」
 淑子が佐々木に尋ねた。
「佐々木先生、ご紹介しますわ、青山プロダクション社長の工藤さんです。こちら、茶道師範の佐々木淑陽先生、佐々木さんのお母様でいらっしゃいますの」
 小夜子が佐々木に代わって工藤に淑子を紹介した。
 前回工藤が初釜に呼ばれた際、ちょうど淑子は家元の初釜に呼ばれて日が重なり、出席していなかった。
「佐々木さんにはいつもお世話になっております」
 工藤は淑子に頭を下げた。
「それはご挨拶が遅れました、周平の母でございます」
 姿勢の良さや仕草から滲み出るような気品は、一朝一夕に身に付くというものではない。
 しかもこの年代でここまでの美貌の主は、さすがに何人もの女優などを見てきている工藤も知らなかった。
 佐々木が息子だということは一目瞭然だ。
「あ、先生、お世話になります」
 工藤の後ろから良太が淑子に挨拶した。
「広瀬さん、ご挨拶の時、扇子が逆を向いていました。お気をつけなさい」
 いきなりの指導に、良太は「はい、すみません!」と元気よく答えてしまった。
 途端、周りからくすくす笑いが起きる。
「周平、笑うところではありません」
 思わずつられて笑ってしまった佐々木を見咎めた淑子がすかさずびしりと叱咤した。
「はい、すみません」
 言いながら佐々木は笑いをかみ殺しして、肩をすくめる小夜子と微笑み合っている。
 工藤の登場に何やら落ち着かないようすでその様子を少し離れたところから見つめていた沢村宗一郎夫妻だが、大長や三友フィナンシャルの友田に呼ばれたのをこれ幸いとそちらの会話に合流した。
 良太は視界の隅でそれを確認すると、ふうとため息をついた。
 淑子があの調子で、沢村にはお世話に、なんて宗一郎に言った日には、どういうご関係でなんてことになりかねない。
 工藤はもしや、沢村ではなく佐々木のことを気遣ってわざわざ自分から小夜子に声をかけてきたのかも知れないと、良太は思った。
 やはり工藤は年上の女性には頭が上がらないようだ。

 


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