寒に入り18

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 淑子に言葉をかけられて神妙に頷いている工藤を見て、良太はまた一人、工藤の苦手な相手を見つけた気がして、笑みを禁じ得ない。
 この場合の苦手は、決して嫌いじゃないが、という前提だ。
 クソババア、なんて自分の祖母のことを詰っていた工藤だが、案外、本人を目の前にしたら勝てないことがわかっているのではないかとも思う。
 本当は逢いたかったりして。
 そろそろ客が帰り始めた頃、良太はアスカの祖父と絵の話をしていた千雪を探しあてて声をかけた。
「千雪さん、ちょっとすみません」
 アスカの祖父中川幾馬は日本の美術界においては巨匠の部類に入る洋画家だが、群れることを嫌いどこのグループにも属さず、また弟子も取らず、暇があると大長のところへやってきては将棋を楽しんだり、フラッとスケッチ旅行に出かけたりという自由人だ。
 良太は挨拶を交わした程度だが、アスカの父は京都のK大で人類学の教授として、千雪の父親とは存命の時から気の合う仲間だったらしいことを最近知ったばかりだ。
「おう、良太ちゃん、今度、社員の家族も参加で慰労会やるんだって? 楽しみにしているよ」
「あ、はい、よろしくお願いします」
 一応社員にはメール等で、日程候補と場所を通達し、要望等あれば知らせてくれるように頼んである。
 早速一番乗りでアスカから幾馬の出席を聞いていたが、傘寿も近い御仁は大長とともに矍鑠としており、むしろ良太や千雪の方が、いつぞやもオフィスで疲労困憊状態で顔を突き合わせていたのを思い出した。
「さ来週あたりキャスティングの打ち合わせお願いします。来週、うちの会社の慰労会なので」
 良太がこそっと言うと、千雪が渋い表情を向ける。
「やっぱ良太、工藤病が進んどるな、初釜で仕事の話とか」
「帰ってから連絡しようが今話そうが同じです。工藤病、やめてください」
 縁起でもない。
「それより慰労会?」
「ああ、うちの社員とその家族を招いて日頃の労を労おうという、珍しく工藤さんが言い出したんですよ、宴会嫌いのくせに」
 良太は後半、こそっと千雪に耳打ちする。
「へえ」
「本当はハワイとかグアムとかどっかへ青山プロダクション御一行様で海外旅行とかならよかったんですけど、何分、スケジュールがなかなか合わなくて、だったら、都内の星の多いホテルとかでラグジュアリーに過ごしていただくとか、あと、ほら、アメリカのドラマとかで、ホームパーティ楽しそうじゃないですか、あんなのがいいかななんて考えたんですけどねえ」
 千雪は笑みを浮かべ、「良太、お前のお陰で会社は回っとるんやな。ほんま」と言いながら、ポンポンと良太の肩を叩く。
「何ですか、それ」
「褒めとるんやないか。工藤さんも頭上がらんわけや」
「不必要なよいしょしても、何も出ませんから」
 良太は軽く千雪を睨む。
 招待客があらかた帰って行き、残っているのはほぼ、知った顔になった頃を見計らって、沢村がようやく佐々木の方へやってきた。
「佐々木さん」
 意気揚々とやってきた沢村だが、「沢村さん、今日はご出席いただいてありがとうございます」とその前に立ちはだかったのは紫紀だ。


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