寒に入り27

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「前に良太に送ってくださったブランデーケーキ、頂いたんですけどすんごく美味しかったです!」
「あら、嬉しいわ。また焼いて送りますね」
 口を挟んだアスカにも百合子はにこにこと笑顔を向ける。
「ケーキと言えば杉田さんもプロ並み。何せ、うちの社長の子どもの頃からケーキ焼いてるって」
 良太の科白に、よけいなことを、と工藤は顰め面をする。
「良太ちゃんのお母さま?」
 そこへ杉田さんが参戦し、昨年の工藤の誕生日にケーキを焼いたことを話すと、一同大盛り上がりだ。
「ぼっちゃんのことはお小さい時から存じ上げてますからね」
 飛び出した杉田の、工藤が嫌がるぼっちゃん呼ばわりに、「出た、ぼっちゃん!」と異口同音に口にされ、工藤は増々渋面を作る。
 だから嫌だったんだ。
 社員の家族にまで話が広がり、工藤はそれこそバックレたくなっていた。
「良太ちゃんのお母さまって、きれいで若~い。うちのママと変わんないくらい」
 奈々が良太にこそっと言った。
 良太が最も危惧していた奈々の両親も、ざっくばらんで賑やかで陽気な他の家族に早々に引っ張り込まれて、最初はぎこちなかったようすが次第に楽し気に変わっていた。
「そんなよいしょ、うちの母親に言わなくていいから」
「ええ? ほんとのことじゃん。やっぱ良太ちゃんに似てるね」
 昔からよく言われた。
 良太は母親似、亜弓は父親似だ。
 だから良太は可愛い系、亜弓はきっぱり美人なのだ。
 平造も志村も真中も家族がいない面々のことを良太は心配したが、それぞれに楽しんでいるようだ。
 何より、タレントも気を抜いて寛いでくれているのが、良太は嬉しかった。
 慰労会の後は、二泊三日で家族ごとに人数に合わせてコネクティングルームになっているスイートを取ってあるので、そちらでもゆっくりしてもらえるはずだ。
 良太も今回ばかりは一緒に泊まることにして、百合子と亜弓、良一と良太でそれぞれの部屋に別れた。
 熱海のアパートでは狭い部屋に四つ布団を敷いて寝ているが、父親と二人旅行気分など初めてだなと、良太は改めて思う。
「とうさん、先に風呂入って。俺、まだやることあるし」
 バスに湯を張って良太は良一に声をかけた。
「おう、そいじゃ、先、もらうよ」
 こりゃ、凄い風呂だ、などと言いながらバスルームのドアを開けた良一は、ちょっとまた戻って来て言った。
「いやあ、豪勢な旅行だなあ。社長さんにくれぐれも礼言っといてくれよ」
 気のいい父親は、満面の笑みで風呂に入って行った。
「そう、だよな。俺、ほんとに、工藤には世話になってるよな」
 しみじみ口にすると、良太はふう、と息を吐く。
 その工藤にもちゃんとこのホテルに部屋を取ってあったが、慰労会の後、工藤は真夜中のロケに出かけて行った。
 近年にない寒波のお陰で、ドラマの北海道ロケは猛吹雪で飛行機が飛ばず、撮影はずるずると延び、結局「大いなる旅人」の京都ロケにも工藤は遅れて同行した。
 今夜はのびのびになっていた「カラスの城」の新宿周辺のロケだ。
 案の定工藤は年明けからフル回転だ。
 それでも年末よりはまだマシか。

 


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