子供の頃は、差別的な言葉でからかわれたとも言っていたが、本人の陽気な性格や笑うと目がなくなり、厚めの唇がにっと笑うとカワイイ! とSNSでのお茶目なショットやオフシーズンには芸人顔負けのしゃべりでバラエティなどに出たりしているせいで、中高女子から大人女子まで、そこは沢村人気とはまた違うところで人気者だ。
選手の間でも誰とでもすぐに打ち解けるし、上の者にもへつらわず下の者にも横柄にならず、しかも割と信じやすく純粋で喜怒哀楽が激しいところなども仲間から好かれている。
そこんとこも沢村とは真逆だよな。
いつも仏頂面をしている上に大柄であまり口を開かないから上から目線だとか何様だなどと誤解されがちな沢村だが、実力でそこは文句を言わせないところがある。
それが八木沼が声をかけ、いつしか言葉を交わすようになると、あれ、沢村ってこんな奴だっけ、と沢村に対する周りの見方も少し変わってきたようだ。
基本人を信じない沢村は、よほど親しくないと滅多に素を出さない。
良太にしてみると、沢村が無口で寡黙な実力主義などと評されているのを見て、どこがだよ、と突っ込みたくなるほど良太や近しい者の前では別人格だ。
いつぞや良太が怪我をして入院した時に、心配して静岡から駆け付けた亜弓と会社で鉢合わせして、小学生かというような低レベルの言い争いをしていたという沢村のことは見なくても大体想像がつく。
恋人の佐々木の前では五歳児レベルのやんちゃ小僧に変貌する。
しかしだ、問題は、たまたま今度朱雀酒造がGWから新発売する糖質オフ・プリン体オフのノンアルコールビール、「Yes!Free!(イエス、フリー)」のCMキャラクターに起用され、制作にはその佐々木が携わることになっているのだが、最初の顔合わせの際、この佐々木に八木沼が一目惚れした、らしいのだ。
良太も取材で会うたびに、佐々木に逢うにはどうすればいいかなどと聞かれ、曖昧に答えを濁していたのだが、沢村によると、きっちり言ってやった、という。
一体何をきっちり言ってやったのやら。
とにかく八木沼の興味の対象が他に移っていることを願いつつ、良太は市川アナウンサーによるインタビューに答える八木沼を見ていた。
「そらもう、今年はホームラン五十本超え、打率三割超え、打点百超えで三冠王目指すに決まってますがな」
今年の抱負を聞かれて、八木沼はサラッとのたまった。
「驚きませんよ、八木沼選手のことだから!」
市川もおおっと驚きつつも笑顔で返す。
「いや、目指す、言うたんで、あくまでも目指すくらいはできますやろ?」
「何だか八木沼選手なら有言実行でできちゃいました、ってことになりそうですね」
「ハハハ、いや、俺、沢村選手みたいに頭よおないんで、データで計算やなんてでけんから」
「なるほど、沢村選手はデータで計算されている?」
「いや、その、沢村選手はクレバーやから、そやないかなと」
突っ込みを入れられて八木沼は珍しく焦りながら言い訳をする。
沢村が天性のスラッガーなどと言われているものの、それだけでなく実は様々なデータを分析してそれを実践に取り入れているのをあまり本人は人に話さない。
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