寒に入り31

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「しばらくして目え冷めてきて、起きな思た時や、その子が、誰かと電話で、八木沼なんかちょろい、写真撮ればカモれるとか何とか話しよって」
「え、それってハニートラップ?」
 八木沼の話に良太は驚いた。
「先輩にくれぐれも引っ掛かるなて、耳タコやったのに、ほんまになさけのうなって」
「それでどうしたんです?」
 良太は勢い込んできいた。
「ゲロったんが幸いして、まだ服も脱がずにベッドに突っ伏しよったからな、ポケットから携帯出して、録音したんや、その子の電話の内容」
「え? それで?」
 意外に冷静な展開だ。
「酔うたふりして、や、酔うてたんやけどな。トイレに飛び込んで、こそっとラインでダチに。ほんまは兄貴に連絡しよ思たんやけど、兄貴はやっぱあかんな、て」
 そこでまた八木沼はため息を吐く。
「え、何でお兄さんだとダメなんです?」
「そら、あかんわ。兄貴が出て来よったら、相手半殺しの目に合うか知れんもん」
 良太はああ、と思う。
 なんかメチャ怖い兄だと、前に八木沼が話していた。
「うへ、それでどうなりました?」
「ダチが何人かで部屋押し掛けてきよったんで、女の子とっとと逃げよった」
 ハハハと八木沼は情けなさそうに笑う。
「俺、それ以来、知らん子にはもう踏み込めんようになってしもて」
「それは……面倒な後遺症ですね。けど、だからって男に走るってのはちょっと短絡的過ぎる気が」
 人気選手にそんなトラウマがあったことを気の毒に思いながら、良太は言った。
「や……、男に走るとか、そんな気ぃはなかってん。ただ、佐々木さんやっただけで」
 拳を握りしめて力説したあと、八木沼は項垂れた。
「まあ、佐々木さんの場合、結構、そういうのあるみたいで。一目ぼれしてみたら男だったって話」
 良太が慰めにもならないようなことを言う。
「わかるわ」
「それでなくても、わかってても言い寄られるケースも結構あるらしくて、佐々木さん、ほとほと迷惑しているみたいで」
「メイワク……………」
 また八木沼が泣きそうな顔になったのを見て、「いやだから、八木沼さん、ほんと、八木沼さんなら絶対いい人が見つかりますって!」と良太は何の根拠もないがそう言って励ました。
 しかし、佐々木さんって意図せずしてだけど、罪作り?
「良太って、ええやつやな」
 頼りなさげな笑みを浮かべて八木沼が言った。
「はあ、ありがとうございます」
 途端八木沼がすっくと立ちあがる。
「俺、良太が付き合うてくれるんやったら、立ち直れる気ぃする」
 ガッシと両肩を掴まれて八木沼に覗き込まれた良太は、「はあ?」と八木沼を見上げた。
「良太、中川アスカと付き合うとるんか? やなかったら、俺と……」
「売約済みです!」
 良太は必死になって喚いた。
「え、中川アスカと?」
「違います!」
「ほな、沢村のやつ、中川アスカと佐々木さん二股やんか!」
「それも違います!」
 きっぱり良太は否定する。
「実は諸事情あって、沢村とアスカさんが付き合っている風に装っただけです。アスカさんの提案で」
「そう…なん?」
「とにかく、トラウマのせいで男に走るって、あり得ないでしょう?」
 するとまた八木沼はソファにすとんと腰を降ろした。

 


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