なんだよっ! 今のっ! どっかのアメリカのドラマみたいな展開は!
お陰で目が覚めちまったじゃないかよ!
家族と一緒に泊まっているからだろう、工藤は一切そういうマネはしなかったし、良太も工藤に対するそういう素振りをしないよう極力自分に言い聞かせていた。
にも拘わらず、なんだよっ! と文句を言いたいのが半分、浮足立ってしまうのが半分という状況だ。
しかもだ、工藤とのことを亜弓に言い当てられたようなことになっている。
亜弓にはそうだとも違うとも言えず、言葉を濁しただけだが、今のところ良太にはそれ以外に対応のしようがない。
ただ、否定しないということは即ち頷いたことと同じだと、亜弓は受け取ったかも知れないが。
翌朝、出発前の慌ただしい青山プロダクション御一行様が集った会議室では、良太と鈴木さんが各々の家族にあらかじめ用意しておいた土産を渡した。
「宅配ご利用の方はこちらにお申し出ください」
「何だかいたれりつくせりで、悪いわね」
声を張り上げている良太に、杉田さんがそう言って笑った。
「こんなイベントそうそうないから、俺も楽しいんですよ」
「良太なんか学祭かなんかのノリだもんね」
アスカにしては朝早く起こされて欠伸をしながら、祖父用の土産は配送してと言った。
「この後撮影入ってますよね? お祖父さん、お一人でお帰りに?」
「秋山さんが早めに出て送ってくれるって」
「それはよかった」
「でも、おじいさまもすっごく楽しんでたみたい。絵描き仲間か将棋相手の京助のお父さん以外の人との交流ってあんまりないから」
アスカの言葉に、それは何よりだと良太は思う。
やがてコーヒーや紅茶を前にひとまずみんなが落ち着いたところで、工藤は一言挨拶をして締めると、また撮影へと向かった。
「十一時まではここでお寛ぎいただけます。ごゆっくりなさってください」
良太と鈴木さんはホテルを出る面々をタクシーまで送った。
両親は土産を持って帰るというので、良太はタクシーまで荷物を運んだ。
「楽しかったわ。忙しそうだけど風邪には気を付けてね」
百合子はニコニコと良太に言うとタクシーに乗り込んだ。
「そうだぞ、身体が資本だからな」
明け方部屋に戻った時、良一は目が覚めたようで、朝食の時、仕事、大変そうだな、としみじみと言った。
「だが、やりがいがありそうじゃないか」
「そうだね、まだまだってとこだけどね」
両親に自分の仕事を何となくでも知ってもらえたことは、良太としてもこのイベントを企画してよかったと思う。
「能にシェークスピア? お兄ちゃん、学生の時より勉強しなくちゃいけないんじゃないの?」
亜弓もからかい気味に言いながら笑ってタクシーに乗り込んだ。
走り去るタクシーを見送った良太は、ふうっと息を吐いた。
「よかったと思うわ、このイベントやって、ほんとに」
あらためて鈴木さんが言った。
「まあ、次は何か他の形でできたらいいんですけどね」
「でも、良太ちゃんがいなかったら、こんなイベントできなかったと思うわ。ありがとう」
面と向かって鈴木さんに礼を言われて、良太は戸惑った。
「工藤さんにとっても会社にとっても、良太ちゃんは必要不可欠な存在だと思うわ」
「ちょ、やだなあ、鈴木さん、そんな大げさな………」
「ほんとよ」
フフフと笑う鈴木さんは、工藤と良太のことをどんなふうに理解しているのだろうとふと思うが、深く考えるのはよそう、と良太はとりあえずそれも保留にすることにした。
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