寒に入り44

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 皆が帰途に就いたのを確認して、最後にホテルを後にした良太は、一路乃木坂へと向かった。
 ほんの三日ほどオフィスを離れていただけだったが、それに時間がある時には猫のようすを見に戻ったりしていたのだが、自分の部屋に戻ると、良太は疲れはあるものの一気に肩から力が抜けた気がした。
 この部屋に住んで五年程だが、すっかりほっとする我が家になっているから不思議だ。
 最初は工藤の命を受けた平造の采配で、いきなり家具と猫ごと前のボロアパートからこの部屋に移動させられたわけだが、住めば都、しかも会社には徒歩数分だ、去年グズグズ引っ越しを考えたことなどとっくにどこかに行ってしまっている。
 猫たちのお世話をして風呂に浸かると、冷蔵庫から缶ビールを取り出し、炬燵に足を突っ込んでプルトップを開けて、美味い~と、何かのCMのように口にする。
 やがて良太が落ち着いたとみるや、ナータンが良太の膝に乗っかってくるし、ちび猫はそのナータンに顔をくっつけて眠り始めた。
「こんなひとときこそ、幸せっつうやつだよな」
 猫をしばし撫でながら、良太は呟いた。
 うだうだしているうちに窓の外はすっかり陽が落ちている。
 なんか、弁当とか買ってこないとな。
 冷蔵庫にはビールとポカリくらいしか入っていない。
 だが、一度気が抜けるともう動きたくない。
 そのうち絨毯の上に寝転がると、良太はいつの間にか寝入ってしまった。
 突然、ヒヤリ、としたものが頬に触れ、「ひえああっ!」と意味不明な悲鳴を上げて飛び起きた時には既に九時を回っていた。
「おコタで寝ちゃったら風邪をひくわよって、今朝もママに注意されてただろうが」
 仕事の関係で良太がいつか見た映画の昭和のスターのように、スーツの上にコートを羽織って缶ビールを持ったままニヤニヤと工藤が見下ろしていた。
「う、お疲れ様です。炬燵に入ったらいつの間にか………シェークスピアとか読もうと思ってたのに」
 確かに炬燵の上には、シェークスピア、能、カミーユ・クローデルに関する本が雑多に積み重ねてあった。
「枕にして寝れば、夢の中で読めるかもしれないぞ」
「変なからかい方しないでください」
 と、本の横には老舗寿司店の寿司折が二つ置いてあった。
「うわ……お寿司!」
「紺野さんと食ってきたから、みんな食っていいぞ」
「ありがとうございますう」
 工藤の言葉を最後まで聞かないうちに、良太はシェークスピアの横に折を広げていた。
「腹減った………うまそ………いたあだきます!」
 ガツガツと寿司を平らげる良太の向かいに腰を降ろすと、工藤も炬燵に足を突っ込んで缶ビールのプルトップを開けた。
 どうせこんなことだろうと工藤は思っていた。
 良太は全力投球で仕事をやり終えるまで、肩に力が入っていて、眠りも浅い。
 以前、良太の知らないうちにとこの部屋の模様替えをする際、良太が前のアパートから持って来て使っていたパイプベッドや簡易家具の類はキングサイズのベッドやしっかりしたチェストやデスク、テーブルセットに取り換えたのだが、フローリングの床にラグマットを敷いて置いていた炬燵をどうするかと平造に聞かれ、工藤は迷ったものの、厚ぼったい絨毯を敷いてその上にまた新しいラグを敷き、炬燵だけは残したのだ。

 


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