「まあなあ。あ、忘れないうちに言っとくけど、例のドラマほぼ本決まりだから、キャスティング決まったらよろしくな」
「ちぇ、良太、やっぱ工藤にマインドコントロールされてるぞ」
「るさいよ!」
小笠原とああでもないこうでもないと言い合ったことで、良太は懸念していた慰労会の中身が見え始め、帰る道すがら案外真剣に色々と考えてくれた小笠原の顔を思い出して笑った。
「ああ、でも、シェークスピアも読まなきゃだなあ」
内容が重々しそうな古典文学のことを考えると良太はしばし憂鬱になりつつ、乃木坂の駅で地下鉄を降りて階段を上がる。
地上に出て歩くこと三分、青山プロダクションビルに着いて警備員に挨拶をして、良太はエレベーターに乗った頃には既に酔いも覚めていた。
携帯が鳴ったのは、良太が風呂から上がって猫じゃらしで猫たちを遊ばせている時だった。
「え、こっち帰ってるんですか?」
高輪に戻っているとばかり思っていた工藤が、隣からで、酒を付き合えという。
「よおし、また遊ぼうな」
二つの可愛い猫を交互に撫でてやりながら立ち上がると、良太は部屋を出た。
通夜に行くと言った工藤の顔を見て、ああ、これはかなりきつそうだとわかるくらいには、工藤との時間を共に過ごしてきた。
「明日のお葬式にも行くんですか?」
好きなバカルディをグラスに注ぐ工藤に、良太は聞いた。
「いや」
良太にグラスを差し出しながら、工藤は首を横に振った。
「俺が顔を出すと、さざ波が立ちそうな気配もあるからな」
苦笑する工藤の言葉に、良太はその心中を察した。
縁は切っているとはいえ、伯父は広域暴力団の組長である。
キー局にいた頃もそう言う目で見る者がある程度いたし、おそらく長居しても出世は難しいことも工藤にはわかっていた。
別に出世がしたいわけではなかったが、鬼の工藤と呼ばれて活躍を知られるようになってしばらくして、何となく圧力を感じるようになり、可愛がってくれた先輩の鴻池が、親の会社を継ぐべく局を離れると聞いた時、工藤もきっぱり局を去った。
だが、入社当初から工藤の能力を認め、その出自を気にすることもなく後押ししてくれていた大野には、並々ならぬ恩を感じてはいたものの、会社を興してからは忙しさを理由に自分から会いに行くことも憚られた。
「忙しさにかまけているうちに随分経ったんだな、局を辞めてから結局一度も顔を見ることもなかった」
悔やみを滲ませながら工藤はボソリと言った。
どれだけそんな悔しさを呑み込んできたのかと、良太は工藤を思いやる。
ただ、そんな風に心の内を吐露するくらいには、良太のことを信用してくれるようにはなったということか。
だが言うべき言葉は見つからなかった。
どんな言葉も発してしまうと、嘘くさくなりそうな気がしたのだ。
「バカ、何でお前が泣くんだ」
工藤に苦笑されて、良太ははっと目尻を拭う。
工藤の悔しさや寂しさに同調するかのように勝手に涙がこぼれたのだ。
「あんたが泣かないからだ」
「フン」
鼻で笑いつつ工藤は良太を引き寄せた。
工藤は指で良太の顎を上向かせるとゆっくりと口づける。
口づけは次第に深く、そしていやらしくなり、良太はソファに押し付けられて、股間に工藤の指が絡まってきたあたりで喚いた。
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