霞に月の113

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「だからだめなのよ! 高広は! はいそうですか、でいいわけ? 違うんじゃない? 良太ちゃん、大事なんでしょ? 何でそう言ってあげないわけ?」
 店から出てきた紺野は「どうかしたのか?」と二人に声をかけた。
「いや、すみません、俺はこれで。森田のことは調べてみます。また連絡します」
 工藤は口を尖らせて工藤を睨みつけているひとみに背を向けると、通りに出てタクシーを止めた。
 乃木坂へと向かう車の中で、工藤は逡巡した。
 確かにひとみの言う通りだろう、とはわかっていた。
 だがそれでも、良太を縛り付けるような言葉を口にしていいものかどうか、迷わざるを得ない。
 仮にそう言ったところで、それでも良太が例えば天野と付き合うというのであれば、それだけの話なのだが。
 やはり、俺のせいで良太に何かあった日にはと思わないではいられない。
 実際、最初からあいつは無茶をやりやがって。
 今回のことにしても、いくらクロエが拉致されるのを見たからって、あのバカは、非力なくせに!
 そこまで考えると、良太が無性に愛おしくなる。
 怒鳴ったりすればむきになって言い返すくせに、ちょっとしたことでよく泣くし。
 確かに、再検査するって時にマジに泣かれた時は結構堪えたんだ。
 それが何だ? 俺にクロエと家族とか、いったい何なんだ、それは!
 ったく何を考えてるんだ、あいつは!
 結局のところ心の中で良太への文句を並べ立て、いっそすぐにでも良太を捕まえてそのまま言ってやりたい工藤だったが、今日はパワスポと夜はまた『コリドー通り』のロケで良太は出ずっぱりだ。
 フン、うまくいかない時はうまくいかないもんだ。
「お帰りなさい。何だか空模様が怪しくなってきましたわね」
 鈴木さんが窓の外を見ながら工藤を出迎えた。
 デスクに向かいながら、工藤はちょっと窓の方を振り返った。
 雨の夜のロケはきつそうだ。
 良太のやつ、また熱でも出さなけりゃいいが。
 最近、良太のことでは、まったく俺は母親かと突っ込みを入れたくなるようなそんな心配ばかりだ。
「コーヒー、ここ置きますね」
 デスクで電話を取った工藤に、鈴木さんが言った。
「青山プロダクション工藤です。藤堂さんいらっしゃいますか」
 プラグインに電話をすると、丁寧な対応は三浦だろう。
 全員が元英報堂だったようだが、あのオフィスもそういえば四人以上増えないな。
 数年前に立ち上げた代理店だが年々順調に軌道に乗ってきているものの、四人で抱えられる程度の仕事量なのだろう。
 わざわざ業者のために仕事量を増やすようなバカなマネはしないらしい。
「お電話かわりました、藤堂です。お世話になっております」
「忙しいところ申し訳ないが、ちょっと情報が欲しいんです」
「どういった情報でしょうか?」
 一見お茶らけているように見える藤堂も、実は頭の切れる男であらゆる分野の情報のストックが半端ないことは、良太からもよく聞かされていた。
「森田和也について、最近何か不穏な噂でもありましたか?」
 すると、ああ、そうですね、という答えが返ってきた。
 


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