坂口と工藤、それに溝田と宇都宮が酒を酌み交わして笑っている。
「高広」
誰かが工藤を呼んだ。
「お前か」
親し気に工藤が笑いかけたのは香坂だ。
「フレンチにしようよ」
香坂が工藤の腕に自分の腕を絡めた。
「いいぞ」
何だよ、工藤って和食党じゃなかったのかよ。
「最初はローマ行く?」
「そうだな」
良太の見ている前で二人は仲よさげに背を向けて歩き出した。
え、待てよ! 何だよ、ローマって!
工藤!
行っちゃいやだ!
工藤!
めちゃくちゃ呼んでいるのに、工藤、聞こえないのかよ!
遠くでバタンとドアが閉まる音がした。
かなり深い眠りに落ちていたらしく、浮上するまで時間を要した。
あれはどこのドアだろう。
どこのドア?
ぐるぐると良太は頭の中でそんなことを呟いていた。
工藤の姿は消えていた。
嗚咽しているのは良太自身だった。
しゃくりあげて泣いても、もう工藤は戻ってこない。
工藤―――――っ!!
その時、絶対起きるはずのデスメタルが鳴りだした。
自分の喚き声とガンガン鳴り響く音で、良太はがばっと起き上がった。
「………工藤………?」
良太の足元で丸くなっていた猫が驚いて飛び降りた。
良太はようやくそこが自分のベッドで、夢から覚めたらしいことに思い至った。
「………夢?」
にしてはえらくリアルな夢だった。
それに良太は濡れている頬を手の甲で拭った。
夢で、工藤を呼んで泣いていたらしい。
あたりを見回すと、昨日着ていたスーツはハンガーに掛かっているし、シャツは椅子に引っ掛けられ、良太はパンツ一丁だ。
昨夜の記憶が、途中からまた、ない。
確か、モリーと焼酎を乾杯して、ごくごく飲んで、お代わりをして………。
そこで記憶はぷつんと途切れていた。
送ってくれたのって、モリー?
じゃないよな。
「強くもないのにカパカパ飲むからだ」
断片的に、工藤の声が蘇る。
やっぱ工藤?
「大丈夫ですってば!」
自分の声も蘇る。
「あんたの手なんか借りなくたって、ぜんっぜん平気なんすからあ!」
ベッドまで運んでくれた工藤の手を良太は振り払った。
「わかってますよ! 俺じゃ、香坂先生や千雪さんとかみたいに、も、ぜんっぜん信頼もできないって。まあ、俺なんか、あんたにとっちゃ、ぜんっぜん、何の足しにもならないですもんね」
そんなことを酔った勢いで思い切りぶちまけた気がする。
「も、いいんです。大丈夫、大丈夫。もう、あんたの邪魔はしませんから……」
ベッドにダイブして、それから先は完全に寝落ちした、らしい。
「はあああああ………」
良太は大きなため息をついた。
次には頭痛と自己嫌悪が同時に襲ってきた。
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