霞に月の121

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 坂口と工藤、それに溝田と宇都宮が酒を酌み交わして笑っている。
「高広」
 誰かが工藤を呼んだ。
「お前か」
 親し気に工藤が笑いかけたのは香坂だ。
「フレンチにしようよ」
 香坂が工藤の腕に自分の腕を絡めた。
「いいぞ」
 何だよ、工藤って和食党じゃなかったのかよ。
「最初はローマ行く?」
「そうだな」
 良太の見ている前で二人は仲よさげに背を向けて歩き出した。
 え、待てよ! 何だよ、ローマって!
 工藤!
 行っちゃいやだ!
 工藤!
 めちゃくちゃ呼んでいるのに、工藤、聞こえないのかよ!
 遠くでバタンとドアが閉まる音がした。
 かなり深い眠りに落ちていたらしく、浮上するまで時間を要した。
 あれはどこのドアだろう。
 どこのドア?
 ぐるぐると良太は頭の中でそんなことを呟いていた。
 工藤の姿は消えていた。
 嗚咽しているのは良太自身だった。
 しゃくりあげて泣いても、もう工藤は戻ってこない。
 工藤―――――っ!!
 その時、絶対起きるはずのデスメタルが鳴りだした。
 自分の喚き声とガンガン鳴り響く音で、良太はがばっと起き上がった。
「………工藤………?」
 良太の足元で丸くなっていた猫が驚いて飛び降りた。
 良太はようやくそこが自分のベッドで、夢から覚めたらしいことに思い至った。
「………夢?」
 にしてはえらくリアルな夢だった。
 それに良太は濡れている頬を手の甲で拭った。
 夢で、工藤を呼んで泣いていたらしい。
 あたりを見回すと、昨日着ていたスーツはハンガーに掛かっているし、シャツは椅子に引っ掛けられ、良太はパンツ一丁だ。
 昨夜の記憶が、途中からまた、ない。
 確か、モリーと焼酎を乾杯して、ごくごく飲んで、お代わりをして………。
 そこで記憶はぷつんと途切れていた。
 送ってくれたのって、モリー?
 じゃないよな。
「強くもないのにカパカパ飲むからだ」
 断片的に、工藤の声が蘇る。
 やっぱ工藤?
「大丈夫ですってば!」
 自分の声も蘇る。
「あんたの手なんか借りなくたって、ぜんっぜん平気なんすからあ!」
 ベッドまで運んでくれた工藤の手を良太は振り払った。
「わかってますよ! 俺じゃ、香坂先生や千雪さんとかみたいに、も、ぜんっぜん信頼もできないって。まあ、俺なんか、あんたにとっちゃ、ぜんっぜん、何の足しにもならないですもんね」
 そんなことを酔った勢いで思い切りぶちまけた気がする。
「も、いいんです。大丈夫、大丈夫。もう、あんたの邪魔はしませんから……」
 ベッドにダイブして、それから先は完全に寝落ちした、らしい。
「はあああああ………」
 良太は大きなため息をついた。
 次には頭痛と自己嫌悪が同時に襲ってきた。
 


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