「あーらら」
千雪はちょっと呆けたように良太を見つめた。
「なんかこの頃、酒飲むと涙腺が狂っちゃって、ハハハ」
泣き笑いの良太は涙を手で拭う。
「狂っちゃってやないやろ、あかんがな、ほんまにこの子は」
はあ、と千雪はため息を吐く。
「人をガキみたいに言わないでくださいよお」
そんな千雪の顔を見て、ケラケラと良太は笑う。
「今度は笑い上戸か」
その時、ドアが開いてぬぼっと現れたのは京助だった。
無精ひげに髪はボサボサ、しかもジャージの上下で、まるで千雪の十八番に習ったかのようないでたちだ。
「何やってんだ」
いかにも不機嫌そうに、京助は二人を睨みつけた。
「酒盛りに決まってるやろ」
「なんで、そのガキがいるんだ?」
「やから酒盛りに来たんやて」
眉を顰める京助に、千雪は言い返す。
「あ、お邪魔してます~、お疲れ様あ」
いつもならあまり得意ではない相手だが、京助を見ると良太はへらっと笑い、「なーんか、頭ボーボーにジャージの上下って、流行ってるんすかあ?」とまたケラケラ笑う。
「すっかりできあがってるじゃないか」
京助はキッチンに向かい、冷蔵庫からビールを取り出すと、ごくごくと飲んで、フッと息を吐く。
「良太、今夜からしばらく泊まるからな」
千雪の言葉に京助は剣呑な眼差しを向ける。
「一体何なんだ?」
「まあ、良太にもいろいろ事情があるらしゅうて」
そんな話を二人がしている間にも、良太は焼酎をカパカパグラスに注いでいる。
「おっと、良太、その辺にしとき」
千雪は慌てて良太からボトルを取り上げる。
「ええ? ケチくさいですよ、千雪さん~」
ボトルを取り返そうとする良太から千雪はさらにボトルを遠ざける。
「もうあかん。許容量超えとるやろ」
「今日はとことん飲むって言ったでしょ………」
そう言いながら良太の頭はかくっと前に垂れた。
「あーあ、言わんこっちゃない」
千雪はひとつため息を吐くと、「京助!」とキッチンで明日の朝の用意をしている男を呼んだ。
「なんだ?」
「良太、部屋に運んだって」
「ったく、何でこんなに飲むんだ」
「誰かて飲みたい時はあるわ」
すると苦虫を噛んだような顔で、良太を抱き上げると、京助はゲストルームのベッドへと運んだ。
千雪は良太のバッグを抱えてそのあとに続いて部屋に入り、良太の靴やズボンを脱がせると、着ていた上着と一緒にハンガーにかける。
「いつまでいるんだ?」
「さあ」
聞かれて千雪は小首を傾げる。
「あ、朝飯、良太の分もよろしゅうに」
「ったく、なんで俺があのガキの世話まで焼くんだよ」
「京助が世話やかんと誰がやくん」
ぼそりと横暴なことを呟く千雪を一睨みしたものの、自分の性分を呪いつつ京助は疲れた体に鞭打って、朝食の用意を一人分追加した。
工藤が羽田から会社に戻ってきて腕時計を見ると、午前零時を示していた。
タクシーを降りて荷物と一緒にエレベーターに乗り、七階へと上がる。
酔って潰れてしまった良太は、工藤が出かける時にも起きる気配がなかったので、仕方なく空港に向かった工藤だったが、沖縄でも終始虫の居所が悪くイラついていた。
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