何とか撮影は終わったものの、クルーも奈々や谷川も工藤のそんな様子に気づいてあまり近づいてこなかった。
クソ! まったくあのやろう!
良太のことが気がかりで、撮影が終わるとその日のうちに東京に戻ってきたのだ。
ところが、良太の部屋に入ってみると、良太のいる気配がない。
猫たちが起き上がって工藤を不思議そうに見ているだけだ。
「ああ? 一体どこに行った?」
あたりを見回しながら工藤は思わず喚いた。
明日はまた撮影のはずだし、どこかに出張に行くようなこともなかったはずだ。
また誰かと飲みにでも行ったのか?
「ったく! あのバカ!」
工藤は吐き出すように言うと、自分の部屋に戻る。
だが、シャワーを浴びて、もう一度部屋を覗いたが、良太が帰ってきていないことは明白だった。
ここのところ工藤を避けてはいたが、今夜こそはつかまえて素面で差しではっきり話をさせてやる、と勢い込んで戻ってきた工藤は拍子抜けだった。
というより、そこまで深く良太が思い悩んでいるとは思ってもいなかった。
香坂にも秋山にも、ひとみにまで、良太と話をしろと追い立てられ、とにかく時間を作って良太と飯でも食うか、くらいに思っていた。
ところがなかなか互いの時間が合わない上に、良太は工藤を避けているというより、これでは逃げ回っているかのようだ。
やはり竹野とでなければ天野とでも付き合うというのなら、今更自分の出る幕はないだろうなどと、悠長に構えていたはずが、沖縄に立つ前に良太にぶちまけられたものの、良太は酔っていた上に沖縄に飛ばねばならず、工藤としては何を言うこともできないままようやく仕事にきりをつけて慌てて戻ってきた工藤だが、帰ってみればこのありさまで、良太が本当に離れて行くのではないかという焦燥感が徐々に押し寄せてくる。
「いったいぜんたい、何を考えているんだ、あいつは!」
呟いて口にしたラム酒はいつもより味気なく、一息に飲み干した。
朝になっても良太は帰って来ていなかった。
覗いた隣の部屋では猫たちがペットフィーダーで設定された時間に落ちてくるドライフードをはぐはぐと食べていた。
つまりは帰ってくるつもりがないということだろう。
「あら、おはようございます。沖縄からもうお帰りだったんですね」
定時になってやってきた鈴木さんは笑顔で迎えた。
「おはようございます。良太はまた鈴木さんに猫を頼んで行ったんですか?」
気になって聞いてみた工藤だが、鈴木さんは、「猫ちゃんですか?」と聞き返す。
「いえ、今日も檜山さんの撮影に行ってるとは思いますけど、お泊りはないと思いますけど」
「いや、だったらいいんです。東洋商事に行ってきます」
得体の知れない空虚さに襲われながら、工藤はタクシーを止めた。
今日は東洋商事社長で経済界の重鎮である東洋グループの次期総帥と言われる綾小路紫紀とランチミーティングの予定があった。
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