霞に月の127

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 東洋グループも傘下の東洋商事も青山プロダクションにとっては重要なスポンサーであり、紫紀は何かというとプライベートでも工藤に声をかけてくれるし、簡単に人を信用せず、いつ背を向けられてもいいくらいに考えている工藤にとっても、無碍にはできない存在だ。
 今回の映画も既にプレミア試写会に紫紀を招待した折に高評価をもらっているし、現在放映中のドラマも視聴率はいいのだが、紫紀はそれに甘んじることなく、次を見据えている。
「工藤さん、何か心配事でも?」
 いきなり紫紀に問われて、工藤ははたと顔を上げた。
 東洋商事に出向くと、しばし話をした後、紫紀に連れられてやってきたのは西永福にある『泉水』という料亭だった。
 紫紀は工藤が和食党と聞いて、懐石料理を用意してくれたのだが、いつの間にか工藤の箸が止まっていた。
 工藤も紫紀との仕事はやりがいを感じているし、紫紀の話は面白いのだが、今は何かにつけ良太のことに思いが向いてしまい、上の空になっていた。
「あ、いや、失礼しました」
 工藤はぼそりと口にすると、料理に箸をつける。
「ここはもともとうちの曽祖父が女性を住まわせていた別邸だったんですよ」
 紫紀は仕事とは無関係な話に切り替えた。
「何かと艶聞が絶えない人のようでしたが、最後にはその女性にこの屋敷を渡したんですが、女性は料理人と結婚して、今はその息子さんが跡を継ぐような形でここを切り盛りしてるんです」
「非常にいい腕をお持ちのようですね」
 工藤は世辞ではなく率直な意見を言った。
「そうでしょう? 泉水さんというんですが、もう何年もうちの関係以外には仕事をしていないので、もったいなくて。和食だけでなくその時の要望に応えてフレンチでもイタリアンでも出してくれるので、うちとしては大変ありがたいんですが」
 なるほど綾小路専属の料亭とでもいうわけか、と工藤は納得した。
 客は紫紀と工藤のみ、看板もなければスタッフもいないようだから、先ほど案内してくれたのが細君なのか、料理人と二人だけで十分なのだろう。
「表立って営業はしていませんが、ここにお連れしたお客様なら予約をしていただければ対応してくれますから、今度は良太ちゃんとぜひご利用ください」
 さっきも茶碗蒸しを食べながら、良太が美味い美味いと平らげていく様をつい想像したりしていた。
 まさか工藤の頭の中を紫紀が知る由もないだろうが、良太という名前を出されて思わず知らず工藤は眉をひそめた。
 にしてもあのバカ、いったいどこにいるんだ?
 紫紀とは屋敷を出たところで別れ、夕方から紺野のドラマ関係で動く予定があるが、工藤はとりあえずタクシーを拾って会社へと取って返した。
「良太から、何か連絡ありましたか?」
 デスクにコーヒーを置いてくれた鈴木さんに、工藤は聞いてみた。
「いいえ、今日も出ずっぱりだって昨日言ってましたけど、何か?」
「いや、いいんです」
 鈴木さんはちょっと小首を傾げたがすぐに自分のデスクに戻った。

 


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