霞に月の128

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 良太のスケジュールを確認すると、檜山匠の撮影の後も鎌倉の陶芸家と大森美術の大森和穂と撮影が続いている。
 良太の仕事が一段落するのはその翌日だ。
 工藤自身もこれからしばらくは紺野のドラマ関連のスケジュールが詰まっているが、そのあたりで良太を捕まえないことには、話も何もできやしない。
 あいつ、ずっと部屋を空けるつもりなのか?
 そう考えると、工藤の胸の内を何かヒンヤリとしたものが通り抜けた。

  
 

 

 あと二カット程を残すのみとなって空を見上げるとあたりはすっかり暗くなっていた。
 檜山の屋敷は、正しく敷き詰められた畳や磨かれた廊下や凛とした空間が美しい屋内といい、きれいに手入れが行き届いた日本庭園といい、侘び寂びの理念そのもののようだ。
「でも、俺が掃除してるわけじゃないからな。専門の清掃業者や庭師に月数回きてもらってるだけで」
 屋敷の美しさを言うと、匠は笑う。
「だよな、こんな広い屋敷、一人で掃除なんて無理だし、維持するのも大変だよな」
 良太はただ感心する。
「佐々木さんの家もかなり古いよな?」
「あ、見てくれたんだ? そうなんだよ。あそこも広い屋敷に住人が二人だから、いつもは通いの家政婦さんが母屋の使う部屋だけ掃除してくれるみたいだけど、佐々木さん、撮影入る前に業者に頼んできれいにしてもらってた」
「それに、番町の一等地って、税金すごくないか?」
「らしいね。だから、去年、佐々木さん、税金対策で敷地のどれだけかを売ったみたい」
 まあ、それをとっとと買ったのは沢村だし、沢村はそこに家を建てたいと思っているようだが、まだ実現はしていないからまったく何も変わらないままだけど。
「わお! やっぱ大変だ」
 匠は目を丸くして肩を竦めた。
 でも佐々木さんと沢村は今のところ何の問題もない恋人同士だ。
 しかも佐々木さんのお母さんからのお試し期間がどうなったかは知らないが、双方の母親公認だもんな。
「良太、何かあった?」
 急に聞かれて良太は振り返った。
「さっき、でっかい溜息ついてたから」
 うわ、そんなとこ見られてた?
 ってか、俺、自分でも気づいてないや。
「二時間くらい午後、消えてたし」
「あ、いや、ちょっと会社に用があってとんぼ返りしてただけ。なんかずっと仕事詰まってるし」
 指摘されて良太は適当な言い訳を口にした。
「ふーん、それだけ?」
 匠はちょっと怪訝な顔つきで良太を見た。
 実は猫たちのようすを見に行っていたのだ。
 少しの時間でももふってやりたいし、ドライフードをセットし直したり、トイレを掃除したりして、その間に洗濯をしたり着替えを持ったりして戻ってきた。
 今朝起きた時、ここはどこだとベッドの上でしばらくぼうっとしていた。
 昨夜千雪の部屋に来たことを思い出したが、何だか最近、似たようなことをやっているなと苦笑する。

 


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