霞に月の132

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「ああ、俺らのお邪魔になるんやないかとか、いらん気ぃ回さんでもええで? やりとなったら、京助の部屋行くし」
「はあ……」
 やりとなったらって、千雪さん………。
 それでも千雪の言葉はありがたかった。
 それに、夏頃から撮影に入る予定になっている『検事六条渉』シリーズのドラマのことなど、仕事のことも直接話ができるので、それは良太にとってありがたかった。
 原作の内容の解釈についても作者に確認しつつ、構想を練ることができる。
「そういえば、天野さんやったっけ? なんや良太の因縁の相手やったんやろ? うまくいくんか? こないだの交流会にも来とったよな?」
「ああ、天野さん、俺も気になってて、何しろほら、最初エレベーターで睨まれたじゃないですか、千雪酸と一緒の時。あの後、ドラマのキャストのオファーで事務所行った時も俺睨まれて、これはやっぱダメかもって思ったんですけど、話してみると真面目で仕事に対する姿勢も真摯だし、オファー受けてくれてほっとしましたよ」
「そら、よかったやん」
「そうそう、天野さんと最近飲み行ったりして、しっかり親交を深めてます」
「ふーん? 近づきがたい印象やけど」
「研二さんと同じで、話してみると面白い人で同年代だし、話も合うっていうか」
 そう口にしてから良太はふっと笑顔を引っ込める。
「俺、交流会の時、香坂先生と話してて工藤が珍しく笑ってて意外に思ったけど、やっぱり、年代が近かったり同じだったりの方が、話も合いますよね」
 千雪はそれを聞くと、ふうっと一つ息をついて「同級生なんやから、久しぶりに逢うたら昔話に花も咲くわな」と言う。
「良太と工藤さんだけの話には、誰かてついてこられへんやろ?」
「俺と工藤さんだけの話なんて、仕事のことくらいっすよ。俺といて工藤があんな風に笑うことなんてないし、やっぱ俺じゃダメなんですよ。宇都宮さんも若い恋人と別れた時、言ってましたもん、オヤジにはついて行けないって。俺と工藤さんもおんなじ、俺では工藤さんについて行けないんですよ、結局」
 またぞろ後ろ向きなことを言い出した良太に、千雪はそれこそ金田一耕助のように頭を掻きむしりたいような衝動にかられた。
 ただし千雪の髪はただでさえウエーブもかかっているし、搔きむしったりするとそれこそ頭が爆発しそうなのですんでのところでやめたのだが。
「だから香坂先生とならうまくいくと思ったのになあ」
「あのな、やから、人と人との関係なんて、そんな思うようにいくわけがないんやて」
 脱力気味に言いながら残ったワインを飲み干す良太に、千雪はビシッと言い放つ。
「ですよね。工藤もいい年ですし、工藤と俺とはどうにもならないのに、俺が工藤を好きだからって傍にいて邪魔してたら、工藤掴める幸せも掴めない」
「やから、何べんも言うとるやろ? 工藤さんの幸せってのが良太が思うようなもんと同じとは限らんて」
「俺はやっぱり、鴻池さんの言ったように、工藤の周りをうろついている煩いハエなんですよ。あの時は言われて頭に来たけど、今ならよくわかる」
「ほんまに怒るで?! 自己中の鴻池のアホンダラのクソオヤジのことやなんか持ち出すんやないわ!」
 千雪にとっても、以前、工藤の傍から良太を排除しようとした鴻池とのやり取りは、決して面白いものではなく、それこそ千雪にとっての黒歴史のようなものだった。

 


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