霞に月の133

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「千雪さん、すごいクソミソじゃないですか、鴻池さんのこと」
 ちょっとあきれ顔で良太は千雪を見た。
「当たり前や! だいたいいくら仕事やからいうていまだに取引を続けとる工藤さんの気ぃがしれんわ! そこは俺からすると工藤さんの許せへんとこや!」
 あまりの言われように、「いや、工藤さん、俺にはもう鴻池さんとは逢わせないって決めてるみたいですけど」と良太は俄かに工藤の肩を持つ。
「そんなん当然やろ。第一良太をあないな目に合わせといて、取引続けようとか、どんだけ面の革の厚いおっさんや! 良太がハエや言うんなら、あのおっさんなんかゴキブリもええとこやし」
 千雪はまだ憤懣やるかたないと喚き散らす。
「ゴキブリ………」
 千雪にかかると、大企業のトップも形無しだ。
「とにかくや、自分を卑下するんもたいがいにせい! 俺はそういうんが大嫌いや。俺が三文探偵小説書きや言うとるんは、速水のおっさんへの嫌味でしかないからな」
 それを聞くと良太もハハハと空笑いする。
 スキー合宿でも速水と千雪の嫌味の応酬はもはや名物のようになっている。
「お前ら毎晩飲みとか、いい加減にしとけよ」
 キッチンから出てきた京助はそう言うと、自分の部屋に戻っていく。
「シルビーの散歩、つきあうか?」
 立ち上がった千雪が良太に聞いた。
「あ、はい」
 千雪の愛犬シルビーは京助の部屋にいるらしく、たまに千雪がつれてくるが、良太に非常に好意的で、傍を離れなかったりするし、良太がゲストルームに引っ込むと、名残惜し気な顔でじっと見ている。
「ほんまに良太、好かれとるわ」
 今も良太と千雪の間で歩きながら、良太を時々見上げて笑顔を向けている。
「はは、俺、ほんと、犬猫にはよく好かれるんですよ」
 夜空は晴れていて、三日月が東京を見下ろしている。
 いよいよGWには、『大いなる旅人~京都編』が封切りだ。
 前評判がいいとはいえ、やはり封切られてみないと人の動きはわからない。
 工藤、何考えてるんだろう。
 ま、あの人のことだから、意識はもう次の仕事にいってるよな。
 ここ数日、良太がぶっちゃけてから工藤からの電話もぱったりだ。
 やっぱもう見限られたかな。
 そんなことを考えると、良太の胸のあたりがズキズキと痛んだ。

 
 

 モルグから出てスタスタと階段を上がっていく京助を見た香坂は、「ランチ? 私も行く」と声をかけた。
 既に昼休みは過ぎ、学食も混んでいないだろう時間だ。
 朝食は作っているものの、モルグが立て込んでいて弁当までは作る余裕がないので、京助は焼き肉定食を大盛でがっつり食べる。
 その向かいで同じメニューをがっつり平らげていく香坂は、女性にしては大柄だがプロポーションはいい。
 だが周りを気にするようなことはなく、サバサバした性格だ。
「俺、スーパー行ってくるんで、お先」
 食べ終えた京助が立ち上がると、「スーパー?」と香坂が不思議そうに聞いた。
「今夜は帰るから、食材仕入れねえと。今日は特売日なんで」
「何か、そういうとこ、妙に庶民的よね」
「スーパーのおばちゃんと仲良くしとくと、お得だぜ? 千雪んとこに今良太が居候してっから、あいつの分もあるしな」
 それを聞くと、「良太ちゃん? 千雪ちゃんのとこに? なんで?」と香坂が立ち上がった。

 


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