霞に月の135

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「高広、大丈夫?!」
 むっくりと立ち上がった工藤は、腕を回してみて、おそらく打ち身くらいだろうと判断した。
 目の前であわあわしている運転手に、「まったく、居眠りでもしていたのか?! 俺らがよけなければ人身事故になってたところだぞ!」と工藤はどやしつけた。
 途端に、ひえええ、と首を竦める運転手は四十代くらいか、バンのボディには池田クリーニングという文字が見える。
「とっとと保険屋を呼んで車を何とかしろ。仕事ができなくなるぞ」
 バンの助手席側は街路樹にぶつかって大きくへこんでいる。
 先にパトカーが到着し、工藤やひとみに話を聞いているうちに救急車がやってきたが、「ただの打ち身だ」と言い張る工藤とひとみを乗せると、須永を残してその場を離れた。
「ちゃんと保険屋に話をしてよね、須永」
「はい、わかりました」
 救急車のドアが閉まる寸前にひとみに命令された須永はそれでも心配そうに見送った。
「俺は何ともないと言ってるだろうが! 病院なんぞ時間の無駄だ」
 工藤はまた不満を口にした。
「それでも一応検査してみてください。今は気を張っていますが、後になって鞭打ちになったとか、骨が折れていたとか、よくあることですから」
「あの程度で骨折するほどやわじゃない」
 工藤が言い返すと、「救命士さんに怒鳴ってもしょうがないでしょ。往生際が悪いわね」とひとみが睨みつける。
 波多野には救急車に乗る前に連絡を入れたが、「工藤高広ともあろう人が、何をぼんやりしてたんです? 今回の相手はどうやら一般人のようですが。また連絡を入れます」などと文句を言われた。
 おそらく波多野の手の者が近くにいたのだろう、ぼんやりしていたなどと言われて、工藤は自分に腹が立つ。
 あのバカのせいだ。
 千雪のとこなんかでいったい何やってるんだ!
 頭の中で文句を並べる傍らで、波多野ではないが俺ともあろうものが、誰かのことでぼんやりするなんざ、と苦笑いする。
 救急車で連れていかれた病院では、やっても無駄だろう検査をいろいろされて、工藤はイライラが募る。
「あたし、どこも怪我してないのに、これ以上検査なんか無駄よ」
 さすがにひとみも検査のために待たされる時間もやたらかかるばかりで、いい加減うんざりして看護師に文句を言ったが、「すみません、検査されるようにと言われてますから」としか看護師も言いようがないのだろう。
 電話が入ると工藤はなるべく人のいない方へ移動して電話をするのだが、そういう時に限って看護師が呼びに来たりする。
 ひとみは工藤とともに検査や診察を受けているのだが、工藤が診察を受けている時に、「そうだ、良太ちゃんに連絡しとかなきゃ」と思い立って、良太を呼び出した。
「あ、良太ちゃん、あたし」
 電話の向こうでは良太が何だろうと少し戸惑いを含んだ声で、「ひとみさん、お世話になっております。どうかされましたか?」と聞いてきた。
「ごめんね、忙しい時に。撮影?」
「あ、はい、今、休憩中ですが」
「実はさ、高広とあたし、事故られちゃって」
「え?! 事故って、怪我? え、工藤さん、大丈夫なんですか?」
 良太は電話の向こうでめちゃくちゃ焦って慌てている。


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