霞に月の141

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「考えたさ! どんだけ考えたって俺の答えはおんなじだから……。親は大事だけど、同級生が結婚しようが俺のことは俺のことだし」
 良太は訥々と言葉を紡ぐ。
「あんたの邪魔はしたくないけど、あんたから離れるのは……やっぱ、嫌だ……」
 良太の目からまたぽたっと涙が落ちた。
 反射的に工藤の身体が動いて良太を抱きしめていた。
 ダメだ、ったく……!
 考えてることとやってることが違うだろう。
「お前が邪魔とか、だから言ってないだろうが、バカやろう」
 工藤は良太の頭を胸に抱きよせる。
「このままだとお前、俺の介護でもすることになるぞ」
「……んだよそれ……」
「俺の葬式もお前が仕切ることになるぞ」
「だからそーゆーこと言ってんなよぉ!」
 良太は拳で力なく工藤を叩く。
「事実だから仕方ないだろう、一回り以上も年くってるんだ。ただでさえ、棺桶に片足突っ込んでいるようなもんだしな」
「バカなこと言ってんなって!」
 怒りながらも子供のように泣く良太を可愛いとか思ってしまう己をまさしくバカだと思いつつ、やっぱり俺はこいつに負けている、と工藤は認めざるを得なかった。

 
 

 翌日の夜、紺野との打ち合わせのあと局を出たところで、「一杯やっていくか」と誘われ、先日下柳とも行った馴染みのバーに工藤は立ち寄った。
「映画、いよいよだな」
 スコッチをロックで飲みながら紺野が言った。
 GWに入る週末から『大いなる旅人-京都』が封切りとなる。
 前評判もよいとはいえどうなるかは開けてみないとわからないが、少なくとも大コケはないだろうという予測はできる。
「あとは野となれですよ」
 工藤はバカルディのグラスを傾ける。
「ドキュメンタリーの方もいい感じじゃないか」
「あっちは若いやつらの仕事で、任せてますから」
「良太ちゃんか、うまく育てたなあ」
「あいつが勝手に育ったんですよ。俺は何もしていない」
 昨夜は結局元の木阿弥だ。
 すがってくる良太を前に制御が利くわけもない。
 久しぶりだったこともあって、工藤自身己の欲に我を忘れて、さらに良太を泣かせてしまった。
 全く、離してやるべきが聞いて呆れる。
 その時、ポケットの携帯が鳴った。
「何だ」
 表示されている名前に工藤は眉を寄せた。
「元の鞘に収まったんならええですけど」
「フン、世話になったようだな」
 まさか良太が千雪のところにいるとは、さすがに工藤も思っていなかった。
「まあ、こっちに着替えも置いたままやし、工藤さんにイジメられよったらいつでも来るように良太に言うたってください」
「心配しなくてももう当分はない」
「ほんまですか?」
 怪訝そうな千雪の声に、「クロエに、香坂にもお節介はもういいって言っておけよ」と告げて工藤は電話を切った。

 


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