霞に月の143

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 GWに挙式した良太のご学友、飯島肇とかおり夫妻が青山プロダクションを訪れたのは、公開された『大いなる旅人-京都』がランキング一位を維持した大型連休も終わり、相変わらず工藤も良太も忙しく飛び回っていた午後のことだった。
「あら、良太ちゃん、そろそろ戻るんじゃないかと思うんですけど。この度はおめでとうございます。どうぞ、そちらへ」
 出迎えた鈴木さんが二人を窓際のソファへと促した。
「これ、お土産です。皆さんで召し上がってください」
「あらまあ、お気遣いありがとうございます」
 たまたまオフィスには工藤がいて電話をかけており、ソファには先客、俳優の小小野万里子が座っていた。
「おめでとうございます」
「ありがとうございます」
 二人は万里子の向かいに座ってやや緊張した面持ちで礼を言った。
 万里子とはこのオフィスの裏庭でここ数年行われている花見の宴では顔を合わせているが、こうして相対するとキャリアも十年以上となる人気俳優の美貌やオーラも感じられる。
「高校の同級生でしたわね?」
「ええ、野球部で肇がキャッチャーで良太くんがピッチャーで、私はマネジャーやってたんです」
 楽し気に答えたのはかおりだ。
「あ、でも肇と良太ちゃんは、リトルリーグからの幼馴染で、沢村っちとかとも」
「いいわねえ、そうやって大人になっても仲良しで」
 鈴木さんが紅茶とロールケーキを二人に出して、万里子には新しいお茶を置いた。
「でも、沢村っちが披露宴に現れた時は、大騒ぎで、ねえ」
 かおりはさっきから一言も発していない肇に振った。
「凄かったな。誰の披露宴かってくらい」
「ええ、いいなあ。私らの披露宴にも来てほしかった~。私、神戸出身だから、タイガースファンなのよ」
「あ、そうなんですか? 沢村くん、これまで一度も披露宴とかに呼んでもらってないから絶対呼べって」
 かおりはフフフと笑う。
 そこへ、電話を終えた工藤がやってきた。
 良太のご学友で、顔も見知った相手に挨拶くらいはしておこうというのは、最近の工藤の努力の一環だった。
「あ、お邪魔してます」
「いや、おめでとう。良太はそろそろ帰ると思うが」
 そこで会話は途切れる。
 仕事の相手ならまだしも、何の接点もない相手との会話など、工藤から引き出すのは無理というものだ。
「やっぱり、俺、ずっと思ってたんですけど、俺らが高二だったから、十二年くらい前、小野さん、映画の撮影かなんかで、川崎にいらっしゃいましたよね?」
 ところが、肇の方から思いもよらぬ方向へと会話が流れていく。
「映画の撮影? 十二年前の川崎って、千雪さんの最初の、『花のふる日は』のことかな」
 万里子が言った。
「そう、隣の公園で撮影があるってんで、うちの高校騒いでたんですよ。俺ら、その隣の川崎第一高校で」
「あ、あの時? 良太が大暴投して撮影してるとこにボールが飛んでっちゃった時の?」
 かおりが肇から引き継いで、思い出した、と言う。
「え、まさか、ひょっとして、あの時、工藤さんとこにボール取りに来たのって」
「俺と良太です」
 万里子の言葉に肇が大きく頷いた。

 


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